大井川鐵道は「きかんしゃトーマス号」の運転でたくさんの観光客を呼び込んだ ©2024 Gullane (Thomas) Limited.(写真提供:大井川鐵道、以下も)

 千葉県のいすみ鉄道や新潟県のえちごトキめき鉄道の社長を歴任し、斬新な企画と地域密着の姿勢を前面に打ち出すことで地方鉄道を活性化してきた鳥塚亮氏。その鳥塚氏が、今年6月に静岡県の大井川鐵道社長に就任した。同社はこれまで、保存蒸気機関車や「きかんしゃトーマス号」を運転するなど、観光鉄道としてのさまざまな企画を実現させてきた。

 鉄道業界きってのアイデアマンとして知られる鳥塚氏は、その大井川鐵道でどのような展開を計画しているのか。地方鉄道の課題や未来にも触れたロングインタビューを2回に分けてお届けする。

(池口 英司:鉄道ライター・カメラマン)

本社と現場をつなぐ「通訳」として

——鳥塚さんといえば、これまで千葉県のいすみ鉄道と、新潟県のえちごトキめき鉄道という2つの第三セクター鉄道で、さまざまな新しい取り組みをされた名物社長として知られています。そして今回、静岡県の民営鉄道である大井川鐵道の社長に就任されました。

鳥塚亮・大井川鐵道社長(以下、鳥塚氏):大井川鐵道は、蒸気機関車の保存運転を行う観光鉄道として多くの人を集めてきました。ただ近年、長く大井川鐵道の支援を続けてきた大手民鉄(編集部注:名古屋鉄道)が撤退し、エクリプス日高という投資会社が買収しました。

 投資会社は、無駄使いは絶対にしません。きちんと運営すれば、利益を出すことができる。大井川鐵道はそういう風に目された存在だったわけです。

 買収直後は、立て直しは順調に推移していたようです。ただ、その後コロナ禍があって、台風による災害があって、と状況が変わり、運営が難しくなってきた。

 本社の目指す方向が、現場に正確に伝わらないのではないかという懸念が生じるようになったのです。事業がうまく行っている時は、多少のことには目をつぶることができても、運営が難しくなると、そうも言っていられません。そこで本社と現場をつなぐ「通訳」が必要になったのですね。

6月から大井川鐵道社長を務める鳥塚氏。写真は新金谷駅前「プラザロコ」(静岡県島田市)内のSLミュージアムで

——それで、鳥塚さんに白羽の矢が立った。

鳥塚氏:鉄道の現場の動きは、東京で働いている人たちには、分からない部分もあるのだと思います。エクリプス日高という会社は、買収した9つの会社を、すべて黒字化させました。

 その中で大井川鐵道は、即時の黒字転換は難しいと認識されているのですが、それでも、ずるずると赤字を続けるわけにはいかない。私は、災害によって現在不通となっている川根温泉笹間渡駅(静岡県島田市)と千頭駅(静岡県川根本町)の間を復旧させないことには、黒字化は難しいと考えていますが。

——川根温泉笹間渡駅と千頭駅の間が不通になったのは、2022年9月の台風15号による土砂災害のためでした。それからずいぶん時間が経っているようにも感じますが、復旧に時間がかかっているのは、崩落の規模が大きいからなのでしょうか?

鳥塚氏:崩落した箇所がいくつもありますが、そこだけを直せば鉄道が蘇るのかというと、そういうことにはなりません。