各地でさまざまな形で公開されている鉄道廃線トンネル。その大部分は山間部にあり、冬期は降雪などでクローズされるケースが多い。今回は駅からほど近く、冬でも安全に歩ける歴史あるトンネルを紹介する。
>>トンネル内に残る当時の勾配標や距離標など(フォトギャラリー)
(花田 欣也:トンネルツーリズムプランナー、総務省地域力創造アドバイザー)
公開されている鉄道廃線トンネルの中でも最長レベル
JR中央本線・勝沼ぶどう郷駅から徒歩5分ほどの旧・大日影トンネル(以下、大日影トンネル)が竣工したのは明治35(1902)年。翌年、東京から甲府までの鉄道が開通し、平成9(1997)年に列車の高速化のため新線トンネルに切り替えられるまで特急、急行列車が頻繁に通った。
平成19(2007)年に甲州市により遊歩道として整備されたのが、今回紹介する「大日影トンネル遊歩道」だ。
中央本線は、五街道の一つ、甲州街道が通るわが国の要衝ルートに開通した幹線で、東京の西端にあたる高尾から甲府盆地にかけては険しい山々が連続する。その区間には、大日影トンネルと同じ明治35年に竣工した当時日本最長の笹子トンネル(4656m)、小仏トンネルをはじめ多くのトンネル、橋梁が設けられた。
これらの幹線トンネルの掘削には、明治当時の最新の土木技術と大量の人員が投入されたが、急峻な谷に接するトンネルの工事はリスクを伴い、大日影トンネルは5年がかりの難工事の末に開通した。耐久性の高い良質な煉瓦が大量に必要となり、トンネルから近い牛奥村(現・甲州市)に工場を設け、現地の土を使用して製造された。
そんな大日影トンネルの歴史的価値もさることながら、特筆すべきは1368mに及ぶその“長さ”だ。
全国各地でさまざまな形で公開されている鉄道廃線トンネルの中でも最長レベルで、トンネル内を歩くと出口まで約30分を要する。内部には鉄道が走っていた当時のさまざまな遺構が豊富に残り、かつパネル等による関連の説明も各所にあるので飽きさせない。
まず大日影トンネルを訪問する前に、勝沼ぶどう郷駅付近にその歴史的背景を感じさせるポイントがある。
現在のホームから一段下に見える旧勝沼駅のホーム跡だ。同駅は、列車で東京方面から来ると、連続する長いトンネルを抜けて初めて視界が開け、甲府盆地とその先に連なる2000m級の山々を見渡せる絶好のロケーションにある。