~ 中小企業の今とこれからを描く ~
日本政策金融公庫総合研究所では、中小企業の今とこれからの姿をさまざまな角度から追うことで、社会の課題解決の手がかりを得ようとしています。最新の調査結果を、当研究所の研究員が交代で紹介していきます。今回は、省力化で人手不足に立ち向かう中小製造業をテーマにした連載の2回目です。中小製造業の取り組み事例から、省力化投資で成果をあげるポイントを考えます。
>>「ここまできた、中小製造業の人手不足を補う技術がスゴイ…南部鉄器のベテラン職人の思考が詰まった「AI師匠」も誕生」から続く
(田中 哲矢:日本政策金融公庫総合研究所 研究員)
省力化投資の四つのポイント
前回は、中小製造業の人手不足には量的な不足と質的な不足があることを説明した。そして、人手不足に対応する手段の一つとして省力化投資に注目した。
紹介した事例企業は、省力化投資によって残業の減少や工程の内製化などを実現し、収益向上につなげている。
今回は、省力化投資に取り組む中小製造業の事例をもとに、成果をあげるためのポイントとして、「現場をよく観察する」「技術のキャッチアップを怠らない」「目的を社内全体で共有する」「省力化投資は人的資本投資に向けた布石」の四つを挙げたい。
ポイント①:現場をよく観察する
ポイントの一つ目は、自社の生産現場をよく観察することである。
現場がうまく回っているようにみえても、実態は従業員の頑張りで辛うじて成り立っているケースはよくある。現場力と言ってしまえば聞こえは良いかもしれないが、現場に頼りきりは事業継続の観点からも懸念が残る。
省力化投資を考えるうえでは、まず、従業員の働き方を改善できないかという視点をもって現場をよく観察することから始めたい。
岐阜県大垣市で染色整理加工を営む株式会社艶金の墨勇志社長は、取引先からの苦情をきっかけに自ら工場の生産管理状況を見直した結果、ベテラン従業員の差配で何とか乗り切っている実態を把握した。
事業を長く続けていくには、現状に甘んじてはいけないと考え、生産管理システムの導入を端緒とするデジタル化にかじを切った。IT企業と一緒に工場内を観察した結果、AIによる色味検査システムの構築につながった。
昔ながらのやり方を重んじたり、頑張る従業員を鼓舞したりすることは大切であるが、それだけでは現場は疲弊してしまう。従業員は貴重な経営資源であることを意識すれば、省力化の対象が多々あることに気づけるのではないだろうか。