
~ 中小企業の今とこれからを描く ~
日本政策金融公庫総合研究所では、中小企業の今とこれからの姿をさまざまな角度から追うことで、社会の課題解決の手がかりを得ようとしています。最新の調査結果を、当研究所の研究員が交代で紹介していきます。前回に引き続きフードテックに取り組む中小企業について取り上げます。最終回は、企業事例をもとにフードテックがわれわれの生活にもたらす便益について考察します。
(篠崎 和也:日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員)
>>>#1「スマホで原材料ラベルを読み取るだけ、AIがアレルゲンを自動判定…食を変革する中小企業のフードテック」
>>>#2 「“牛型ロボット”が差し出すソフトクリームに子どもは大喜び!成功するフードテック企業のユニークな発想」
社会全体にもたらされる恩恵
前回は、企業事例をもとに、技術を導入する際のポイントとして「チューニングの発想」「プラスアルファの発想」「適材適所の発想」「ビジネスモデルの発想」「全体最適の発想」の五つの発想を紹介した。
最後は、フード業界の課題である三つの「む」と三つの「不」を解決することで、フードテックがわれわれの生活にもたらすメリットを考察したい。
利便性の向上や食の豊かさの実現といった個人にもたらされる便益、生産性の向上や成長領域の創出といった食にかかわる産業にもたらされる便益は想像に難くない。しかし、事例企業の取り組みを分析すると、もっと広く社会全体にもたらされる便益があるとわかる。三つ紹介したい。
【興味のある方はこちらもご覧ください】

小規模・完全人工光型の野菜工場がもたらすもの
一つ目は、食の安全保障の確立である。気候変動による生産の減少、国際関係の悪化による輸入の途絶などから、十分な食料を適切な価格で入手できなくなる可能性がある。不測の事態に備えた食料の安定供給にも、フードテックは大きく寄与する。
スパイスキューブ株式会社が設計や事業化の支援を行っている完全人工光型の植物工場は、自然環境に左右されることなく、野菜を通年で生産できる。さらに、小規模化を果たしたことで、立地の制約や資本力の多寡による参入障壁も低くなった。農業の不確実性を解消し、都市部の生産者というこれまでにない担い手の層が厚みを増せば、食料自給率の改善につながるはずである。
