田舎暮らし、地方移住、田園回帰…。そんな言葉が注目されるようになって、どれくらいが経つのだろうか。農山村の専門家チームがまとめた『移住者の地域起業による農山村再生』(2014年、筑波書房)によると、今日に続く流れがはじまったのは、バブル経済が過去のものとなった1990年代後半以降。中高年の「定年帰農」や、「新・農業人フェア」のスタートによる現役世代の就農意識の高まりが、そのきっかけになったとされている。
そんな大きな傾向とは裏腹に、足元では、移住者と地域をめぐってネット界隈が「炎上」するシーンが目立つ。「ほら、田舎は閉鎖的だ」。SNS上の言説が「都市vs.田舎」の二項対立を煽り立てている。地方移住、とりわけ移住創業をめぐる現状は、いったいどうなっているのか。受け入れ地域と移住者、それぞれが意識すべきことは何か。日本政策金融公庫総合研究所の研究員がレポートする。(JBpress)
~ 中小企業の今とこれからを描く ~
日本政策金融公庫総合研究所では、中小企業の今とこれからの姿をさまざまな角度から追うことで、社会の課題解決の手がかりを得ようとしています。最新の調査結果を、当研究所の研究員が交代で紹介していきます。初回のテーマは移住創業と地方の活性化です。
(桑本香梨:日本政策金融公庫総合研究所 主席研究員)
4人に1人が「なじめていない」
コロナ禍も影響して関心が高まっている地方移住。移住する人のなかには、その地域で自ら商売を始める「移住創業者」もいる。
移住創業には、本人のライフスタイルを豊かにするだけでなく、少子高齢化の著しい地方の経済を活性化することも期待されるが、当研究所が行ったアンケートでは、移住創業者の4分の1が移住先地域になじめていないという(図1)。
加えて特筆すべきは、そうした移住創業者に対する地域住民の姿勢だ。
住民の大半が歓迎の姿勢を示す一方で、移住者の支援に自ら関与するかどうかということに対しては、消極的になる傾向がみられた(図2)。
※調査の詳細はこちら:日本政策金融公庫総合研究所『調査月報』(2022年7月号)
移住創業を盛り立てて地方経済の潤滑油にしていくためには、このようなミスマッチを減らしていく必要がある。
望まれる取り組みについて、移住者と地域住民の両面から、事例も交えつつ考えていく。