この4月、徳島県神山町に開校した神山まるごと高専。起業家教育を全面に打ち出した私立の高等専門学校である。コンセプトは「テクノロジー×デザイン×起業家教育」。自然豊かな神山で、ソフトウェアやAIなどの情報工学をベースに、デザインや起業家精神について学ぶところに大きな特徴がある。
少子化の折、経営に行き詰まる学校も出始めているにもかかわらず、若者の姿が消えて久しい過疎の町になぜ高専ができたのか。地方創生の文脈で注目を集める神山の本質とは。(文中敬称略)
◎著者新刊「神山 地域再生の教科書」(8月2日刊行予定)
(篠原匡:編集者、ジャーナリスト、蛙企画代表)
前回記事「起業家育成をうたう『神山まるごと高専」、なぜ消滅可能性都市に誕生したのか」の最後に書いたように、神山の地域活性化の本質は、多様なバックボーンを持った住民が何かを始める偶然性、偶発性にある。
筆者が神山という地域に通うようになって10年以上が経つが、神山の変化を見ていると、何か具体的な計画があり、そのゴールに向かってアクションを遂行するという企業経営的なアプローチではなく、多様な住民、もっと言えば「おもしろい人」「変わっている人」「何かをやりたい人」を集め、そういう人が出会う中で自然とわき起こるものを重視していると感じる。
「別に道筋があったということではなくて、偶発的にいろいろなことが起きて、振り返ると『あれっ、こんなところまで来とったんかな』という感覚。高専ができるなんて、全く考えていなかったから」
高専設立を主導した1人であり、神山の移住交流支援を手がけるNPO、グリーンバレーの創業メンバーである大南信也が語るように、サテライトオフィスの第1号として名刺管理サービスのSansanが神山に来た時、将来、高専ができるなどと考えた人は誰もいなかった。そもそも、つくってほしいとさえ思っていなかっただろう。
ところが、大南をはじめ神山の様々な住民とふれ合う中で、Sansanの創業者である寺田親弘が高専プロジェクトを立ち上げる。寺田が“勝手に”始めたのだ。
同じようなことが神山では次々と起きている。例えば、2022年4月に開業した「森の学校みっけ」がそうだ。みっけとは、小学校1~6年生を対象にした週5日制の無認可のオルタナティブスクール(※)である。
※オルタナティブスクールとは、学校教育法第一条で定められている「一条校」や不登校の子どもが通うフリースクールとは異なる「もう一つの学校」。文部科学省の学習指導要綱に縛られず、子どもの主体性や自主性を重んじた教育を提供する。地元の公立小学校と連携しており、みっけに登校すれば、公立小学校の出席扱いになる。