海外の芸術家を招く滞在型のアート・イン・レジデンスや古民家を活用したサテライトオフィスなど、独自のまちづくりで知られる徳島県神山町。現在はSansanを創業した寺田親弘・代表取締役などを中心に、2023年4月の開校を目指して「神山まるごと高専」という高等専門学校の設立を進めている。新規の高専誕生は約20年ぶりのこと。大学などの母体を持たない独立系私立高専としては日本初の存在だ。理事長就任を発表した寺田氏に、高専設立にかける思いや進捗状況について聞いた。(聞き手、篠原匡:編集者・ジャーナリスト)
──2019年6月に神山まるごと高専設立準備委員会を設立して以来、寺田さんは高専の理事長候補を探していましたが、最終的にはご自身が理事長に就くことを決めました(実際の就任は2023年の開校時)。以前にお会いした時は学校経営にはタッチしないという方針でした。どういう心境の変化があったのでしょうか。
寺田親弘氏(以下:寺田):今回の理事長就任は、Sansanを含め、これまでに経験がないくらい大変な意思決定でしたね。もともとはあくまでも発起人の一人で、理事長をやるつもりはありませんでしたが、さまざまな流れの中で、自分がやることがベストだと腹をくくりました。
2019年6月に準備委員会を立ち上げた後、いろいろ滑ったり転んだりしましたが、2020年9月にZOZOのCTO(最高技術責任者)を務めた大蔵峰樹氏を校長に選出し、次は理事長ということで動き始めました。数十人には会ったと思います。
その中で、定期的にアドバイスをもらっていた小林りんさん(ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事)に、ある女性を紹介いただきました。今回、クリエイティブディレクター兼理事として参画する山川咲です。
──完全オリジナルのウェディングを企画・プロデュースしているCrazy Weddingを創業した女性ですね。
寺田:そうです。彼女に惚れ込んだ僕は、神山まるごと高専にかける僕たちの思いやコンセプトを伝えたり、実際に神山に案内したりして、理事長就任を引き受けてくれるように一生懸命話をしました。実際、彼女も真剣に考えてくれました。それで、てっきりOKしてくれるものだと思っていたら、最後の最後でこう言われたんです。
「理事長は寺田さんがやらなければうまく回らない。やるつもりがないなら、高専設立そのものを白紙に戻すべきだ。寺田さんが理事長をやるのであれば、全力で支える」と。この言葉がズボッと刺さりました。
もともと僕の中では社会貢献という位置づけで、資金面や方向付けでは協力するけれども学校経営に関わるつもりはありませんでした。僕はSansanの経営者であり起業家の端くれ。ビジネスの世界で戦っている人間です。その僕が、学校の理事長に収まる姿が想像できなかった。
──以前、話を聞いた時も「自分はやらない」とおっしゃってましたね。
寺田:ただ、僕は言い出しっぺの一人ですし、資金面のサポートもする。そうなると、誰が理事長になっても僕が影のオーナー的な存在に見られるのは避けがたい。結局、僕がコミットしないと、誰が来てもうまくいかないな、と感じたわけです。