写真:9月6日に開催された神山まるごと高専開校決定記者会見

 古民家を活用したサテライトオフィスなど、独自のまちづくりで知られる徳島県神山町が新たな歴史の1ページを開いた。起業家育成を目指して開校準備が進められていた私立高等専門学校「神山まるごと高専」の開校である。

 1学年40人の5年制で、学科は「デザイン・エンジニアリング学科」ただ一つ。寮生活を送る学生は、自然豊かな神山で、ソフトウェアやAIなどの情報工学を学び、デザインやデザイン思考を身につけ、起業家精神を育む。「モノを作る力で、コトを起こす」。そんな学生を輩出することを目指している。

 2019年6月の構想発表以来、理事長や学校長の選定に始まり、構想の具体化や教員集め、文部科学省への認可申請など、様々な困難が立ちはだかったが、8月31日、晴れて文科省から開校の認可を受けた。

 この高専づくりで中心的な役割を果たしたのが、名刺管理サービスで知られるSansanの創業経営者、寺田親弘氏だ。上場企業を経営するかたわら、理事長の就任を前提に、設立準備や資金調達に関わってきた。

 少子化が進む中、あえて高専をつくろうと思ったのはなぜか。なぜ起業家育成を目指した高専なのか。なぜ現役の企業経営者が教育にコミットするのか──。10年以上、神山町のまちづくりを定点観測している編集者が寺田氏に話を聞いた。(聞き手:篠原 匡、作家、編集者、蛙企画代表)

──2019年6月に神山まるごと高専の構想を発表してから3年余り、ようやく高専設立の認可が下りました。今の率直な感想についてお聞かせください。

寺田親弘氏(以下、寺田):まだ何も始まっていませんが、なかなかに疲れました。2019年に構想を発表した時に想像していたものの10倍は大変でした。

 僕は物事をアジャイルというか、行き当たりばったりで考えるところがありまして、構想をバーンと上げて、そっちに勝ち進んでいけというスタイルです。当然、途中で様々な問題に直面するので、そういった問題を一つひとつ解決し、あるいは軌道修正を図りながら構想の実現を目指す。

 2019年に構想を発表した時も、そこまで綿密に考えていませんでしたが、いやここまで大変だとは考えていませんでした。特に、高専設立を言い出して、様々な人を巻き込んで進めてきたことに対する責任感。これは企業経営とはケタが違いました。

──学校長を引き受けてくれた大蔵(峰樹)さんをはじめ、大勢の人が高専設立に関わりましたからね。

寺田:その重圧はありましたよ。自分で理事長を引き受けてやろうと決めてからは特に。

──前回お会いした時に、理事長を引き受けた経緯と葛藤について話していました(参考記事:「高専づくりはスタートアップよりも難易度が高い」)。

寺田:2019年に構想を発表した段階では、認可が下りた段階で自分が理事長に就任するという気は全くありませんでした。ふさわしい理事長や学校長を連れてきて、言い出しっぺの私は寄付など資金面でサポートするという感覚です。

 実際、比較的早い段階で大蔵さんが学校長を引き受けてくれましたが、理事長候補はなかなか決まらなくて……。いろいろな方々に理事長候補になり得る方を紹介いただいて、「初めまして、寺田と申します。理事長、やりませんか?」というようなトークをオンライン越しで繰り返していました。学校長を含め、50人ぐらいにはお願いしていると思います。

──2020年の夏から秋にかけてですか?

寺田:そうですね。2020年の後半はずっとそんな感じです。