毎朝、大勢の人が行き交う小田急線・相武台駅前の風景。その中には、厳しい状況に置かれている人も少なくない(写真:Ricaldo Mansho、以下同)

 今年6月の厚生労働省の発表によれば、2021年度の国内の生活保護申請の件数は速報値で22万9878件と、前年度と比較して0.8%増加した。生活保護にまでは至っていないが、生活が困窮しているという人まで含めれば、その数はさらに膨れあがる。

 生活困窮と一言で言っても、その理由は人によって異なる。仕事をリストラされた場合もあれば、怪我や病気で働けなくなった、ひとり親で働きに出る暇がない、引きこもりの家族がいる、軽度の障害があり仕事がなかなか続かない──といった事情もあるだろう。日本全体が徐々に貧困化していく中、経済的に弱い層が貧困の沼に引きずり込まれている。

 こういった生活困窮者に、救いの手を差し伸べている自治体がある。神奈川県座間市役所生活援護課だ。生活保護の申請を抑制する「水際作戦」を取る自治体もある中で、生活援護課は「断らない相談支援」を旗印に徹底的に困窮者に寄り添う。

 生活困窮者は誰が支えるべきなのか。自己責任だと言って切り捨てるのか、それとも「明日は我が身」と考えて社会として支えるのか。『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』(朝日新聞出版社)を上梓した、ジャーナリスト・編集者の篠原匡氏に話を聞いた。(聞き手:加藤 葵、シード・プランニング研究員)

※記事の最後に篠原匡氏の動画インタビューが掲載されていますので、是非ご覧下さい。

──なぜ本書のタイトルを「誰も断らない」にしたのでしょうか。

篠原匡氏(以下、篠原):座間市の生活援護課が掲げる「断らない相談支援」という理念から取りました。

 困窮者支援と一口に言っても、相談者がどういう状況なのか、詳しく話を聞かない限り、適切なサポートは提供できません。

 失業状態にある人を見ても、借金がある、ひきこもりや障害のある家族を抱えているなど、それぞれが抱えている事情は異なります。その状況によって対応も変わるため、まずは断らずに話を聞く必要がある。それで、彼らは「断らない相談支援」という看板を掲げているんですね。

 座間市生活援護課が相談者に寄り添い、耳を傾ける姿勢には、その理念が強く反映されています。

──市役所には様々な方が相談に来ると思います。取材の中で、強く印象に残ったことはありますか。

篠原:様々なケースを見ましたが、10年、20年と自宅にひきこもっていた方に話を聞いて、「これは人ごとではない」と思いました。

 私が就職活動した時期はいわゆる就職氷河期で、就職活動がうまくいかず、そのまま大学に残ったり、バイトで生計を立てたりする人が私の周囲にもいました。

 私も大学に通う一方で、餃子屋と立ち飲み屋のバイトを掛け持ちしており、「どこにも就職できなければ、こんな感じで働いていればいいや」と気楽に考えていました。

 その後、運良く出版社に受かり、物書きになりましたが、あの時、受かっていなければ、自分の性格を考えるとフリーターになり、ひきこもっていたと思います。本当に紙一重の運。その意味で、他人の話とは思えなかった。

 あとは、アウトリーチの話ですね。生活援護課では、市役所に来ることができない人に対して、生活援護課の職員が直接ご自宅に出向いて話を聞くというアウトリーチ型の支援が行われています。

 私も一度、相談者の家の手前まで同行したことがありますが、住宅街の中のごく普通の家で・・・・・・。当たり前の話ですが、こういうのは外からは見えないんだな、と思いました。

──他人に見られたくないと、暗闇の中で顔を真っ黒に塗っていた相談者もいたそうですね。