8月7日から甲子園球場で第106回全国高校野球選手権大会が始まる。各都道府県の代表校が熱戦を繰り広げる「夏の甲子園」は、球児とって夢の舞台だ。その高校野球界では、かつての熱血・スパルタ指導から「自分自身をコントロールするための自主性」を意識した指導へと変革が求められているという。『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)では、野球評論家・著作家のゴジキ氏が、強豪校の監督にスポットを当て、分析を交えながらその指導法を紹介している。
(東野 望:フリーライター)
今一番勢いに乗っている監督が重視する指導とは
仙台育英高校の須江航監督は、同校を2022年に東北勢初の甲子園優勝に導いた名監督として知られる。2019年から2023年まで常にベスト8以上まで勝ち上がらせていることからも、今一番勢いに乗っている監督と言っても過言ではないだろう。
須江監督が実践するのは、「データ」と「感性」を活かした指導。まずは秋から翌年夏にかけて「注力する練習」や「体作り」など、細かな年間計画を策定する。段階を追ってやるべきことを決めることで、振り返った時に「良かった点」「悪かった点」がよく分かり、次につなげていけるという。
より詳細なデータ活用にも積極的に乗り出している。
試合に出場する目安はバットのスイング速度140km/h以上、打撃動作を省いた一塁駆け抜けタイム3.85秒未満が求められる。そこで、年に数回行う測定会で打撃速度や飛距離、送球の速さなどを測るのだ。
それらのデータは選手にも公表し、練習メニューにも反映している。定量的なデータを活用することで選手選考時の不公平感をなくすとともに、選手自身が練習に取り組む意識をはっきりさせる。
「勝利至上主義」ではなく「勝利主義」
実際の試合では、試合序盤は細かなマネジメントをせずに選手に伸び伸びとプレーさせることを意識している須江監督。そうすることで選手のパフォーマンスを最大化させ、自立したプレーが磨かれるようになるという。
選手たちの自主性を高める指導は、勝利だけを目指す「勝利至上主義」のためではない。勝てばいいというのではなく、勝利という「成果」に真剣に向き合う「勝利主義」を大事にしている。須江監督は自著『仙台育英日本一からの招待 幸福度の高いチームづくり』(カンゼン)で、
「なぜ、勝てたのか」「なぜ、上手くいったのか」を自分の中で振り返り、成功体験を積み重ねていくことが学校教育で育むべき能力だ
と述べている。
データという「明確なもの」を使いつつ、何が必要かを考える力をつけさせる須江監督の教えは、卒業後も教え子にとって大きな宝になるだろう。