イタコとは、青森県に実在する女性の霊媒師だ。イタコにはさまざまな役割があるが、広く知られているのは、ホトケ(死者)の魂を降ろして憑依させ、ホトケの言葉を自らの口を通して伝える「口寄せ」だろう。
昭和40年代、50年代の最盛期には、南部地方だけで数十人のイタコがいた。夏と秋に開催される恐山(おそれざん)の大祭の際には、口寄せの順番を待つ相談者で長い行列ができた。だが、高齢化が進んだこともあり、常時活動しているイタコはわずか4人に過ぎない(青森県いたこ巫技伝承保存協会が歴史的伝統的イタコと定義している人数)。
しかも、本来の姿とも言える目の不自由なイタコは、90歳になる中村タケさんただ一人である。絶えつつあるイタコ文化を写真とともに綴る。
(篠原匡:作家、ジャーナリスト、編集者、蛙企画代表)
青森県南部地方のイタコは、口寄せや集落の悩み相談の他に、1月の小正月の時期に「オシラサマアソバセ」の儀式も担っていた。
オシラサマとは、青森県や岩手県、宮城県の県北部などで信仰されていた、男女一対の屋敷神のこと。桑の木の棒に「オセンダク」と呼ばれる布が何重にもかぶせられていて、頭巾をかぶった包頭型、頭が出ている貫頭型の2種類がある。
蚕の神様、馬の神様、目の神様など諸説あるが、青森県いたこ巫技伝承保存協会の江刺家均会長によれば、「何かを産み出す」神様で、祀っている家の職業によって役割が変化する。例えば、漁師の家のオシラサマであれば大漁祈願の神様であり、農家のオシラサマであれば五穀豊穣の神様になる。
オシラサマアソバセは、1月の小正月の時期に家々に祀られたオシラサマを出して遊ばせる、神様を「起こす」儀式だ。もともとは一族の長老の女性が祭主となり遊ばせていたが、江戸時代の末期からイタコが関わるようになった。
死者の口寄せと同じように、オシラサマアソバセの唱えごとがあり、先祖の魂を通して、それぞれの一年を占っていく。
現在、活動しているイタコの中でオシラサマアソバセを手がけるのは、最年少の松田さんだけだ。その松田さんによれば、年に5件程度の依頼しかないという。家にオシラサマはあるが、どこに何を頼めばいいのかわからないという所有者が増えている。
「最後のイタコ」として知られる松田は口寄せがメインだったが、オシラサマアソバセの儀式を蘇らせるため、青森県いたこ巫技伝承保存協会の江刺家会長とともに、オシラサマアソバセの復活に取り組んでいる。
【残り3日!】
蛙企画は、イタコという地域の生活に根ざした習俗を記録し、広く伝えるため、中村タケさんを軸にしたイタコ写真集を出版します。
写真集では、タケさんによる実際の口寄せの記録やインタビューに加えて、イタコの歴史やイタコを成立させている日本人の霊魂観、科学とスピリチュアリティの関係、イタコの役割の一つである「オシラサマアソバセ」、恐山や川倉賽の河原地蔵尊などイタコが集まる「イタコマチ」についても論じます。
イタコという存在をフックに、日本人が無意識に持っている宗教観や信仰を浮き彫りにしたいと考えています。
出版費用を集めるためのクラウドファンディングを3月26日から実施していますので、ご協力いただければ幸いです。
◎「失われていくイタコ文化を後世に遺したい!写真集製作プロジェクト」(https://readyfor.jp/projects/90007)