口寄せに入る前に、あの世から降ろす故人について尋ねる中村タケさん(写真:Aya Watada、以下同)

 イタコとは、青森県に実在する女性の霊媒師である。イタコにはさまざまな役割があるが、広く知られているのは、ホトケ(死者)の魂を降ろして憑依させ、ホトケの言葉を自らの口を通して伝える「口寄せ」だろう。

 昭和40年代、50年代の最盛期には、南部地方だけで数十人のイタコがいた。夏と秋に開催される恐山(おそれざん)の大祭の際には、口寄せの順番を待つ相談者で長い行列ができた。だが、高齢化が進んだこともあり、常時活動しているイタコはわずか4人に過ぎない(青森県いたこ巫技伝承保存協会が歴史的伝統的イタコと定義している人数)。

 しかも、本来の姿とも言える目の不自由なイタコは、90歳になる中村タケさんただ一人である。

 絶えつつあるイタコ文化を写真で語る。

(篠原匡:作家、ジャーナリスト、編集者、蛙企画代表)

 青森県八戸市南郷区──。かつての南郷村には、今なおイタコがいる。最後の盲目イタコ、中村タケさんだ。

 古来、イタコは目の不自由な女性のための仕事で、はしかなどで光を失った少女が社会を生き抜くため、師匠イタコの下でイタコの巫技(ふぎ)を身につけた。タケさんも、そうだった。

中村タケさん。両目の光は失われているが、その目は強い力を放っている

 1932年(昭和7年)に生まれたタケさんは、3歳の時にはしかにかかり、両目の視力を失った。実は、完全な盲目ではなく、光の有無や近くのものの色は感じることができたが、28歳の時の事故が元で完全に失明した。

「3歳の時にはしかにかかったんです。その時に、私が泣かずに寝ていたもんだから、両親がそのまま寝かせていたんです。忙しいから。そうしたら、熱で目の玉がデメキンのようになってね。病院に行ったら手遅れです、と。それで、目が見えなくなりました」

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