川倉賽の河原地蔵尊の本堂に祀られている無数のお地蔵様。それぞれのお地蔵様には残された人々の思いが宿っている(写真:Aya Watada、以下同)

 イタコとは、青森県に実在する女性の霊媒師だ。イタコにはさまざまな役割があるが、広く知られているのは、ホトケ(死者)の魂を降ろして憑依させ、ホトケの言葉を自らの口を通して伝える「口寄せ」だろう。

 昭和40年代、50年代の最盛期には、南部地方だけで数十人のイタコがいた。夏と秋に開催される恐山(おそれざん)の大祭の際には、口寄せの順番を待つ相談者で長い行列ができた。だが、高齢化が進んだこともあり、常時活動しているイタコはわずか4人に過ぎない(青森県いたこ巫技伝承保存協会が歴史的伝統的イタコと定義している人数)。

 しかも、本来の姿とも言える目の不自由なイタコは、90歳になる中村タケただ一人である。絶えつつあるイタコ文化を写真とともに綴る。

(篠原匡:作家、ジャーナリスト、編集者、蛙企画代表)

 イタコと言えば、下北半島の霊場恐山を思い浮かべる人が多いかもしれない。ただ、普段は里の自宅に住んでおり、恐山にはいない。恐山に通うのは、大勢の人が集まる夏と秋の大祭の時だけだ。最後の盲目イタコ、中村タケも15年ほど前まで恐山に通っていた。

恐山の風景

 青森県には、恐山のように、夏や秋の大祭の際に地元のイタコやカミサマ(ゴミソ)、祈祷師などが集まる「イタコマチ」がいくつも存在した。

 川倉賽の河原地蔵尊(五所川原市金木)や赤倉(弘前市)、寺下観音(階上町)、虚空蔵菩薩堂(八戸市島守)、法運寺(おいらせ町)などである。法運寺では2009年頃まで、「百石いだこ祭り」が開催されていた。

太平洋側の階上町にある寺下観音。小川のせせらぎと苔むした境内は霊場の名にふさわしい
寺下観音の境内

 その中でも、川倉賽の河原地蔵尊は、霊場としての雰囲気を今なお強く漂わせている。

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