この10年、全国各地で様々な地方創生が展開されている。サテライトオフィスのような関係人口を増やす取り組みや観光に軸足を置いた取り組みなど、地域の特性ごとに様々な形が見られるが、その中にあって、林業や山林再生を軸にした地方創生は難易度が高く、一筋縄にはいかない。
高度経済成長期までは国内に旺盛な木材需要があり、日本の中山間地は林業で栄えた。ところが、木材需要の減少や安価で使いやすい輸入材の流入によって国産材の需要は大きく減退する。結果的に、山は付加価値を生む存在ではなく、カネにならないお荷物になってしまった。
足元では、大規模建築物などでの木材需要が伸びているが、過去数十年にわたる木材需要の低迷もあり、木材の切り出しや製材などサプライチェーンに対する投資が十分に行われてこなかった。木材という資源をマネタイズすることの難しさ、それが林業再生や山林再生のハードルを上げている一因だろう。
その中で、地域の伝統産業である「炭焼き」をベースに、山林再生に挑む会社がある。徳島県美波町に本拠を置く株式会社「四国の右下木の会社」だ。不思議な社名なのは、同社の活動エリアが四国の右下にある徳島県海部郡(牟岐町、美波町、海陽町)であることによる。
同社を設立したのは、美波町(旧日和佐町)出身の吉田基晴氏。セキュリティソフトの開発・販売を手がけるサイファー・テックの代表取締役である。
吉田氏はソフトウェア開発のジャストシステムや複数のITベンチャーを経て、東京でサイファー・テックを創業したが、新たなワークスタイルを実現するため、2012年に出身地である美波町にサテライトオフィス「美波Lab」を開設した。翌年には本社も美波町に移している。
美波町への本社移転と同時に、地域の課題をビジネスの力で解決するため、株式会社あわえを立ち上げた。あわえでは、美波町に20社を超えるサテライトオフィスを誘致した実績をもとに、サテライトオフィスの誘致支援サービスなどを全国の自治体に提供し、総務大臣表彰も受賞している。
そして今年4月、吉田氏は地域の山林再生に取り組む四国の右下木の会社を創業した。ここで着目したのが、地域に伝わる「樵木(こりき)林業」と、ウバメガシを用いた備長炭づくりである。