京都・嵐山には山陰本線・嵯峨野観光鉄道が横切る踏切があり、撮影スポットとして観光客から人気となっている。ここから女性芸能人が撮影のため線路内に侵入した(2016年5月、筆者撮影)
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 鉄道会社が沿線住民や鉄道ファンを喜ばせようと珍しい列車を走らせることがある。そうした「イベント」を記録しようとカメラを手にした鉄道ファン、いわゆる“撮り鉄”が撮影スポットに大集結する。撮り鉄は自分が理想とする構図で写真や動画を撮りたい欲求から、無断で私有地に立ち入ったり、時には勝手に草木を伐採したりと、傍若無人の振る舞いが以前から厳しく指弾されてきた。近年、そうした撮り鉄の醜態はSNSで拡散されるようになり、それが鉄道ファン全体のイメージを低下させている。

 フリーライターの小川裕夫氏が、蛮行を繰り返す撮り鉄のメンタリティを解説するとともに、共存共栄を図ることで地域活性化を模索する鉄道事業者や沿線自治体の取り組みを紹介する。

115系の運行日情報を非公表に「しなの鉄道」

 長野県にしなの鉄道線と北しなの線の2路線を有する「しなの鉄道」は、沿線の活性化や集客を目的に115系と呼ばれる車両を定期的に運行してきた。

 それら115系は車体にラッピングを施したり、国鉄時代を彷彿とさせる懐かしいカラーリングに塗り替えたりするなど、沿線住民や鉄道ファンを楽しませる工夫を凝らしている。

 同車両は2028年までに全車両が引退する予定になっているが、鉄道ファンから人気が高いため、同社は事前にホームページ上で運行日を告知して沿線活性化に努めてきた。そして運行日には多くの撮り鉄がその勇姿をカメラに収めようと沿線に集まり、経済効果をもたらしていた。

 だが、珍しい車両の運行は沿線活性化や集客に寄与する一方で、沿線住民と集まったファンとの間でトラブルが発生することも珍しくない。

 しなの鉄道では、今年8月、撮り鉄が無断で沿線の私有地へと侵入し、しかも庭先の木を勝手に伐採した。

 住民から苦情が入り、同社がこれを問題視。撮り鉄対策として115系の運行日をホームページ上に掲出することを取りやめると発表した。すると、この発表が瞬く間にインターネット上で拡散され、撮り鉄による悪行は批判の的となった。