(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)
2023年6月29日、横浜市鶴見区のマンションの駐車場で、富永紗菜さんという18歳の女子大生が刺されて死亡した。刺したのは以前から交際のあった22歳の男で、待ち伏せをしたうえでの凶行だった。
男は前から紗菜さんに暴力をふるい、彼女はいったんは別れたが、男は執拗に付きまとった。調べで男は「よりをもどしたかった」と語った。
こういう事件が起きるたびに、また警察は被害者を守れなかったんだなと思う。そして自分とは関係がないのに、こんな卑劣きわまる犯人にたいしてやり場のない怒りを覚える。だれひとりとして、こんな目に遭っていいわけがないのだ。
この男は犯行30分後にクソ小賢しくも自首した。名前がわかってから自首しても、自首にならない。それをたぶんわかっていて、減刑を目論んだのである。
規制法はできても、事件はなくならない
1999年10月に起きた桶川ストーカー事件が契機となって、2000年に「ストーカー規制法」が制定された。
にもかかわらずその後も犠牲者が何人も出て、役立たずの法律みたいに思われがちだが、冷静に考えれば、つきまとい禁止の警告や禁止命令によって、実際にストーカー行為が止んだ事例はいくつもあるのだろうと思う。
規制法には、加害者の身柄を拘束しないと被害者に危害を加える危険性がある場合には、「逮捕」しうるとあり(しかし実際の適用はむずかしそうだ)、罰則もつぎのように規定されている。
「ストーカー行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」、また「禁止命令等に違反してストーカー行為をした者は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金」「禁止命令等に違反した者は、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金」。
それでも、今回のように被害者が殺害される事件はなくならない。自分の人生に絶望した人間にとっては、どんな罰則を設けようと抑止効果はないのだ。