写真:吉原秀樹/アフロ

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 昨年末から、わたしみたいなものにまで出版社から、インボイス制度導入に関して、インボイス発行事業者登録番号はありますか、という手紙が何通もきていた。いずれも、すでに登録番号があるなら教えてくれ、というもので、その他、課税事業者に登録予定なし、検討中、登録予定あり、登録済み、のチェック項目があった。

 なんのことだと思ったが、詳しく見る気にもなれない。めんどうくさくもあり、おれには関係ないだろと、ほうっておいた。なにか問題があれば、あとで見ればいいや。

 インボイスという名称は、以前、洋書輸入会社に勤めていたときに、日常茶飯に使っていた言葉なので知っていた。海外の仕入れ先からの、物品の「送り状」ないし「請求書」といった意味である。2種類あって、オープンインボイスは後払い、プロフォーマインボイスは前金払いだった。

 ところが日本のインボイス制度ではちょっと意味合いがちがうらしい。国税庁のHPには「適格請求書」とあり、仕入れ税額控除に使うもののようだ。なんだこの「適格」ってのは? どうやら国が認めた請求書ということらしく、その条件は登録番号を記載した請求書のようである。

 それに仕入れ税額控除ってなんのことだ。いままで聞いたこともないぞ。また役人が厄介なことをはじめたな、と思った。

インボイスのPRに「北新地クイーン」が登場。2022年9月、大阪市北区の歓楽街・北新地で行われた、インボイス制度の街頭PR(写真:共同通信社)

無駄な時間と労力とカネを使わせているだけ

 インボイス制度とは、いままで消費税を益税として丸々自分の収入にしていた売り上げ1000万円以下の免税事業者に対して、網をかぶせて(課税事業者にして)かれらからその益税を徴収しようとする制度のようである。

 その種の手紙が5月になっても6月になっても来る。この際ちゃんと見てみるかと調べてみたら、ようするに、わたしみたいな年収1000万円以下のフリーランスにとって、いままでの免税事業者のままでいるか、それともあらたに課税事業者になるか、そのことによって消費税の扱いにおいて得するか損をするかという話だった。

 けれど、どっちが決定的に損か得かなどわかりゃしない。わたしは課税事業者になることはやめた。ばかばかしいし、めんどうだ。インボイスなんか発行できるか。損するか得するか、もうどうでもいいわ。どっちみちたいしたものではない。