今年8月に実施されたサマースクールの様子。全国から野心にあふれた中学3年生が集まった

 古民家を活用したサテライトオフィスなど、独自のまちづくりで知られる徳島県神山町が新たな歴史の1ページを開いた。起業家育成を目指して開校準備が進められていた私立高等専門学校「神山まるごと高専」の開校である。

 1学年40人の5年制で、学科は「デザイン・エンジニアリング学科」ただ一つ。寮生活を送る学生は、自然豊かな神山で、ソフトウェアやAIなどの情報工学を学び、デザインやデザイン思考を身につけ、起業家精神を育む。「モノを作る力で、コトを起こす」。そんな学生を輩出することを目指している。

 2019年6月の構想発表以来、理事長や学校長の選定に始まり、構想の具体化や教員集め、文部科学省への認可申請など、様々な困難が立ちはだかったが、8月31日、晴れて文科省から開校の認可を受けた。

 この高専づくりで中心的な役割を果たしたのが、名刺管理サービスで知られるSansanの創業経営者、寺田親弘氏だ。上場企業を経営するかたわら、理事長の就任を前提に、設立準備や資金調達に関わってきた。

 少子化が進む中、あえて高専を作ろうと思ったのはなぜか。なぜ起業家育成を目指した高専なのか。なぜ現役の企業経営者が教育にコミットするのか──。『神山プロジェクト』の著者で、10年以上、神山町のまちづくりを定点観測している編集者が聞いた。(聞き手:篠原 匡、作家、編集者、蛙企画代表)

※前編「起業家と移住者、過疎に苦しむ町が誕生させた神山まるごと高専の10年物語(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71811)」から読む

──10年ほど前に、神山で寺田さんと飲んだ時に、「いずれは教育をやりたい」と言っていたのを覚えています。その後、こうして実現したわけですが、その原動力は何だったのですか?

寺田:シンプルに言うと、起業家教育やテクノロジー教育というのは大事じゃん、というのが原点にあります。

 僕は起業家としてやっているけれども、教育の内側、つまり義務教育や高校、大学の教育を通して企業や経営を習ったことはほぼありません。「それでいいじゃん」「そういうもの」という意見もあるかもしれませんが、僕はそうは思わない。教育の内側でもっとできると思っていたんです。

 今回の高専も、起業家教育を教育の内側でやった方がいいよね、テクノロジーはデザインと一体になった時に本当にモノをつくる力になるよね、高専って面白いよね、このコンセプトをぎゅっとまとめて神山に立てたら成立するんじゃないか、というところから始まりました。

 神山で、高専で、テクノロジーとデザイン、起業家精神を育む学校を作るというラフスケッチ。本当に、そこから始まりましたからね。

理事長に就任した寺田親弘氏

 それでは、もっと根っこにあるものは何かというと、野心のようなものです。チームラボ代表の猪子(寿之)さんとセッションした時に、「寺田さん、それは美意識だよ」と猪子さんは言っていましたが、僕の言葉では野心。

 まあ、野心でも美意識でもどちらでもいいのですが、上場して人よりもお金を持てば、動員できるリソースが増えますよね。それを使って、ビジネス以外に何かできる立場になる。

 その時に、寄付するのも一つの選択肢ですが、自分らしく何かを仕掛けていって、将来の自分が深く関われるようなモノを仕掛けておきたいなと。それは何か、と考えた時に、教育だろう、学校だろう、と思った。

 10年前に篠原さんと話した時は、先ほどのラフスケッチはありませんでしたが、自分なりにいろいろ物事を動かしてきてわかったのは、アングルとアジェンダ次第で動くモノは動くんですよ。

──ただ学校を作るという話ではなく、テクノロジーとデザイン、そして起業家精神を育む高専という切り口。しかも、それが過疎だけれども独自のまちづくりを進める神山だという。

寺田:そうです。これは、渋谷高専、品川高専だと、誰も見向きもしなかったと思うんです。でも、この自然しかない神山で最先端のプロジェクトを進めるというアングルが世の中に対して芯をくったわけで。

──軽井沢高専、葉山高専も何か違いますね。

寺田:それも違う。