
(川島 博之:ベトナム・ビングループ Martial Research & Management 主席経済顧問、元東京大学大学院農学生命科学研究科准教授)
備蓄米の放出があっても米価高騰はなかなか鎮静化しない。スーパーの店頭も品薄状態が続いている。前回(「“優秀な官僚”もコントロールし切れない「令和の米騒動」の本当の原因」)に続いてこの問題を考えてみたい。
十分な供給があるのに米が店頭で不足している理由について、次のような情報が飛び回っている。(1)流通業者の買い占め、(2)農家の売り惜しみ、(3)農協(JA)が故意に流通量を減らしている、(4)中国人やベトナム人が転売目的で買い占めている、などである。これらは部分的には事実であろうが、騒動の主因ではない。
インフレが招いた1918年の米騒動
推理小説ではないが、真犯人は全国民である。多くの場合、食糧高騰の原因は国民がつくる。米が不足しているとの噂が流れると、人々は心配になって通常より多く買う。いつもは1袋買っていた人が2袋、3袋と買う。米は備蓄が可能だからこのような現象が起きる。
これは第一次石油ショック(1973年)の際にトイレットペーパーがなくなった現象にそっくりである。政府が紙の節約を要請するとトイレットペーパーがなくなるとの噂が流れて、多くの人が買い占めに走った。その結果、店頭からトイレットペーパーが消えた。
だがトイレットペーパーは十分に生産されており、騒動が一段落すると多くの家庭に大量のトイレットペーパーが残ることになった。