
昨年(2024年)の秋から続く「令和のコメ騒動」について、約91万トン(2024年6月時点)の在庫がある政府の備蓄米がようやく放出される見通しとなった。当初、農水省は「新米が流通すれば価格は一定の価格水準に落ち着く」との見通しを示していたが、コメ価格は2025年1月以降も「5kg4000円台」という高値が続いていたため、政府はやむなく方針転換した。だが、こんな対症療法的な手法や補助金漬けの農政では本格的な食糧危機は乗り切れない。ジャーナリストの山田稔氏がレポートする。
>>【図】投機目的の事業者が関与?コメの流通経路と備蓄米放出の流れ
コメ価格は1年前と比べて72%上昇、庶民生活は苦しい状況に
東京23区郊外の住宅街。1km四方に食品スーパーが4軒ある激戦区だ。昨年秋のコメ不足のときも、4件のスーパーは独自のルートを駆使してコメの確保に努め、「棚が空っぽ」の異常事態は数日で収まり、5kg3000円台で購入できた。当時は「新米が出回れば量も値段も落ち着く」と言われていた。
ところが、今年の1月後半になってもコメの価格は高値に張り付いたままである。4軒のスーパーを回っても、5kg3800円程度~4300円程度の値が付いている。ちなみに昨年の夏前、6月ごろまでは千葉産や栃木産のコシヒカリなどは安いときは5kg1700~1800円で買えていた。重いコメの買い出しは筆者の仕事なのでよく覚えている。

この数年間の東京都区部のコメ(コシヒカリ5kg)の小売価格の推移を見てみよう(別掲【表1】参照)。
コメ価格はコロナ前から昨年までは2200~2400円台で推移、一般家庭にはありがたい物価の優等生だった。それが一変した。この統計データでも、昨年から今年にかけての異常な高騰が裏付けられた。1年前と比べてなんと前年比72%上昇、つまり1.72倍に上がっているのだ。筆者の自宅近所には中学生と高校生の男子生徒がいる4人家族がいるが、母親が嘆く。
「上の子のお弁当を入れると1日に7合は炊いています。1カ月で50kgちょっとになりますかね。5kg4000円だと4万円。以前なら2万3000円ほどで、週末は外食をすることもありましたが、今はとても無理です」
そんな庶民生活の危機的状況にようやく気が付いたのか、それとも支持率アップのためなのか、石破政権は1月下旬になってようやく備蓄米の放出を決めた。