プロセスも全体像も不明瞭な高額療養費制度の見直し案プロセスも全体像も不明瞭な高額療養費制度の見直し案(写真:ideyuu1244/イメージマート)

山田 稔:ジャーナリスト)

国民の命に直結するテーマでつまずいた石破政権の「内政軽視」

 少数与党政権である以上、政権運営を円滑に行うためには野党に対する多少の譲歩や予算案の一部修正はやむを得ないだろう。しかし、最近の石破政権の迷走ぶりはひどすぎる。

「5kg4000円台」という高騰を招いてからようやく備蓄米放出にスタンスを転換した政策決定の遅さに続き、今度は弱者いじめと言われても仕方がない高額療養費制度見直し案を唐突に出してきて、がん患者団体らの反発を受けるとやむなく一部を撤回するありさまだ。

衆院予算委員会で高額療養費制度の見直し案について答弁する石破首相(2025年2月4日)衆院予算委員会で高額療養費制度の見直し案について答弁する石破首相(2025年2月4日、写真:共同通信社)

 政権としての矜持がまったく見当たらない。コメと医療、ともに国民の命に直結するテーマでつまずいた。先の訪米での“トランプ詣で”で提示した総計150兆円投資の大盤振る舞いに比べ、内政軽視の感が否めない。

 高額療養費制度の見直し案について検証してみよう。今回の見直し案は、所得区分の細分化と自己負担額の引き上げによる保険料軽減を目指したもので、厚労省は「セーフティネットとしての高額療養費の役割を維持しつつ、健康な方を含めた全ての世代の被保険者の保険料負担の軽減を図る」としている。

 3年間で段階的に引き上げていくとしていて、令和7(2025)年8月からの具体的な引き上げ幅はこうだ。

高額療養費制度の見直しイメージ高額療養費制度の見直しイメージ(表:共同通信社)
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 この所得に応じた引き上げに加え、政府の当初の見直し案では「多数回該当」による上限引き下げを撤廃するとしていた。

 これは過去12カ月以内に3回以上、上限額に達した場合は、4回目から多数回該当となり、上限額が下がる仕組みで、年収370~770万円では4万4000円に抑えられている。これをなくすことで、二重の引き上げ案となっていたのである。

高額療養費引き上げ修正のイメージ高額療養費引き上げ修正のイメージ(グラフ:共同通信社)
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