夜間の病院、医師や看護師よりも先に人手が減る職種は何か(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)
「若手医師の当直代より、近所の深夜バイトの方が時給がいい」——。医療現場で自嘲気味に語られてきた“笑えないジョーク”が現実となりつつある。最低賃金が急騰し、民間企業が機動的に賃上げを進める一方で、公的価格である「診療報酬」に縛られた医療機関は“競り負け”、夜間の事務や補助スタッフの確保すらままならない。このままでは救急の受け入れ制限や待ち時間の増大を招くことになる。2026年度の診療報酬改定は、このギャップを埋め、現場に光を届けることができるのか。
(アンター株式会社CEO、整形外科医 中山 俊)
夜、病院で最初に減るのは意外な職種だった
昨年10月、東京の最低賃金が時給1226円へ引き上げられた。深夜(原則22時〜5時)は25%以上の賃金の割増が必要となるため、単純計算すると、東京の深夜帯の時給は、約1533円が“法定の下限”になる。これが医療の現場に与えるインパクトを検証した。
最低賃金が引き上げられれば、夜間労働の市場価格も上がっていく。一方で医療側は、「診療報酬」という公的価格の枠の中で人件費を手当てしているため、夜間の賃金・手当を機動的に上げにくい、という事情がある。
結果として、病院や診療所では、夜間の労働者の採用が目に見えて苦しくなってきている。
採用難は、医師や看護師だけの話ではない。専門職である医師や看護師の前に、採用難が現れてくるのは、夜間の受付や電話、会計、書類、連絡調整といった「医療現場の運用」を支える事務や補助の仕事である。
東京都のアルバイト市場では、募集時の平均時給が全体で1394円、販売・サービス系でも1370円まで上がっている。しかも同じ調査で見ると、首都圏の募集時の平均時給は2020年11月時点の1145円から、2025年11月時点では1355円へ、この5年で210円(約18%)も上昇している。
医療事務(アルバイト・パート)の時給の中央値は東京都で1325円という集計もある。夜間帯は割増も効くため、「夜に働く仕事」の相場は、底上げされやすい。
“時間軸のズレ”に苦しむ医療現場
問題は、「医療機関が、賃金の高くなる夜間の時給を出せない」という、単純な内容だけではない。
そもそも、夜間の医療行為は責任が重く、不確実性がとても高い。急に忙しくなることもあれば、対人対応も濃くなる上、ミスが許されない。
こうした負荷の高さと賃金や手当の伸びが噛み合わなくなったとき、採用市場では、労働者は「別の夜勤」に流れていく。
「若手医師の当直手当よりも、近くの深夜飲食店のバイトの方がいい時給に見える」
医療現場ではこんな笑い話が語られることがあったが、実際、医療の事務職では、これが笑い話では済まされなくなっている。
もちろん労働環境や採用条件などはそれぞれのサービス事業者によって異なるため、乱暴な比較はできない。ただ、賃上げのスピードが速い業界と、2年に一度の診療報酬改定の枠に影響を受ける医療業界とでは、“時間軸のズレ”があり、これが医療現場にじわじわ効いてくるのは確かだ。
では、夜勤の事務や補助の人が足りないと何が起きるのか。
