*写真はイメージ(写真:PR Image Factory/Shutterstock)
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 政府は2025年8月より高額療養費制度の自己負担限度額を引き上げる方針を決めた。高額療養費制度とは、治療が高額となった際に年齢や収入に応じてひと月あたりの自己負担に上限を設ける仕組みで、3割負担で支払った金額のうち、限度額を超えた部分が、後から支給される*1

 たとえば70歳未満で年収370〜770万円の人に100万円/月の医療費が発生すると、自己負担上限額は8万7430円。この場合、3割に当たる30万円を窓口でいったん支払っても、手続をすれば上限額との差額は払い戻される。急な大病や事故に遭っても最善の治療が受けられるように、その後に困窮してしまわないようにつくられたセーフティネットなのだ。

 厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会は、高齢化や高額な薬剤や治療が普及したことで高額療養費が増加し、現役世代を中心に保険料が増加し生活を圧迫しているという理由で、すべての所得区分で自己負担限度額を引き上げる方針を決定。

 そもそも国民皆保険は、公的医療保険に加入して保険料を支払うことで互いの負担を軽減し合う制度だ。もしものことがあっても、公的医療保険に加入していれば、基本的にはなんとかなる――安全・安心な暮らしが補償されることを大前提としてきたはずなのに、である。

*1 加入している公的医療保険に申請手続きが必要(マイナ保険証を利用すると医療機関の窓口で「限度額情報の表示」に同意すれば手続き不要)

自己負担限度額が引き上げられたら「生きていくこと」がままならない

 政府方針通りに引き上げられると、どうなるか。年収約700万円の人は、年間手取り額が約529万円、ひと月の手取り額は約44万円だ。現在の高額療養費の月あたり上限額は「8万100円+1%」のところ、最終的な引き上げ額となる2027年8月から「13万8600円+1%」になる*2

「引き上げになっても、30万円を支払うよりお得でしょ」と思われるかもしれない。これが人生の中で数回しか起こり得ないのであれば、そうかもしれない。だが、実際に高額療養費制度を利用する人の中には、がんや関節リウマチ、乾癬などで何カ月、何年にもわたって高額な治療を必要とする人たちがいる。そのために就労が困難になるなど、収入が大幅に下がることを余儀なくされる家族もいる。

 そうした患者や家族の実態を国会に届けるべく、一般社団法人全国がん患者団体連合会(全がん連)がすばやく動いた。1月17日から3日間、オンラインのアンケートを実施して3000名を超えるがんや難病当事者、関係者による〈生の声〉を集め、24日に始まる第217回国会に向けて与野党の議員を訪問した。目的は「高額療養費の負担上限額引き上げの見直し」と「がんや難病などの患者・家族の切実な声を聞いてもらう」ことだ。

*2 〈「高額療養費制度引き上げ反対」石破首相・福岡厚生労働大臣にがんや難病患者・家族の切実な声を届けたい〉ウェブサイトより

(写真:years44/Shutterstock)
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 高額な治療を必要とする人たちの経済的な困難について、アンケートには悲痛な声が寄せられている。この「高額療養費制度の負担上限額引き上げ反対に関するアンケート 取りまとめ結果(第1版)」はWeb上で公開されているので、どうか1ページだけでも読んでいただきたい*3

 今回は、自己負担限度額が引き上げられたら「生きていくこと自体がままならなくなる」当事者たちの声をお届けしたい。

*3 「高額療養費制度の負担上限額引き上げ反対に関するアンケート取りまとめ結果(第1版)~3,623人の声」