22年から〈がんサロン~CancerおしゃべりCafe〉を開催し、患者さんやその家族と交流する活動を続けています。当事者同士のこころの支え合いが目的ですが、私も皆さんに元気づけられている〈生きがい〉です。こうした活動も困窮することなく生活が安定していればこそ、できるものなのです。

 子どもたちはこの春から受験生になるので、そばで支えてやりたいし、「飛行機に乗ってみたい」という夢も叶えてあげたい。〈おしゃべりCafe〉の活動も続けたい。いても立ってもいられなくて、1月中旬からオンライン署名活動を始めました。完治が望めない私の治療は、〈延命〉ですが、死ぬために歩んでいるのではなく、生きるための道です。高額療養費制度は、その歩みを助けてくれる形であってほしい。必要としている人の梯子を急に外すようなことはしないでほしいです。

「治療費のためにせっせと働き続けている感じ」

平田智恵子さん/悪性リンパ腫(1型糖尿病患者会ひまわりの会会長)

 私は9歳の時に1型糖尿病を発症して、もう40年近くになります。糖尿病分野は医療の発展が特に目覚ましく、インスリンや持続血糖測定器、インスリンポンプ(持続皮下インスリン注入療法)やウェアラブルなグルコース値管理機器など、さまざまな薬剤やデバイスが登場し、普通の人と変わらない生活を営むことが可能になりつつあります。

 でも、私が発症した頃は血糖測定器は保険適用外で、インスリンは1種類だけなど血糖値の自己管理がとても難しい時代でした。医師からも「20歳までしか生きられない」と言われ、もし生きていられたとしても何かしら障がいが出て自活できなくなる、結婚も出産も無理だと言われました。

 結果的には40年も生きていますし、平坦な道のりではなかったけれど結婚して子どもを授かることもできましたから、医療の進歩によって完治があり得るかもという希望はあると思っています。一方で、私の年代の1型糖尿病患者はさまざまな健康リスクがあるのが現実です。私も合併症による網膜剥離や片目の失明を経験していますし、新型コロナウイルスに感染した時も苦労しました。

*写真はイメージ(写真:buritora/Shutterstock)
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 慢性疾患を抱えていると、普段から医療費はけっこうかかります。私はすぐに就職できたものの、治療費のためにせっせと働き続けている感じです。自分のことで精一杯だからと、子どもを持つことを諦める患者さんもいます。私は切迫早産の入院手術や合併症の治療で高額療養費制度を利用してきましたが、年齢を重ねることができたことで、糖尿病とは関係のない他の病気のリスクも上がってきます。これは健康な人でも同じでしょうが、毎月1万円以上の医療費を払いながら、もしもの時に備えるのは大変なことなのです。

 昨年、悪性リンパ腫に罹患しました。病院に行ったら「すぐに入院してください、明日死んでもおかしくない」と言われてびっくりしました。突然のことで病気の知識もないし、治療の選択もできません。助かるための最善の治療があっという間に決まり、その中には高額な薬や治療法が含まれることもあるでしょう。つい、糖尿病だと自己管理が身についているので、医療費はだいたいの目安がわかるものだと思っていたせいか、本当に焦りました。

 抗がん剤治療で入退院を繰り返している間に、子どもが高校受験を迎えました。志望校は私立だったので、合格したら入学金や制服、部活動費など出費がかさむことはわかっていたけれど、病気は時期を選んでくれません。治療のために私の収入が減ったことで国や県の支援金、補助金で無償化の恩恵を受けることができましたが、夫が私の病院、息子の学校関連、さらに彼の母親の介護などで有給を使い果たして欠勤せざるをえず、収入が減ってしまいました。物価も高いし、経済的には本当に厳しいです。

 子どもの卒業式と入学式は抗がん剤の6クール目あたりの予定でしたが、主治医がうまく調節してくれて、どちらも出席することができました。すっかり体が弱っていて、徒歩圏内の中学校まで車で行かなければなりませんでしたが、子どもの大切な節目に立ち会うことができて、本当によかったです。

 私の場合は寛解を目指す前提の治療でしたが、「これが最後かもしれない」という状況の方もおられるでしょう。一つひとつの家族行事を大切に過ごすために1錠が数万円という薬が役立つかもしれません。それは、「あの薬があったから、お母さん/お父さんは、自分の卒業式に出られたんだ」というように、家族にも必要なものだと思います。良い薬を誰もが使えるために、高額療養費制度はあるはずです。お得だとか、浮いたお金で贅沢をしているわけではありません。ある意味では、命や思い出、ありきたりな日常といった最高に贅沢なものを買っているのかもしれませんが。

 1型糖尿病患者の間でも、今回の自己負担限度額引き上げについて話題になっています。悪性リンパ腫になる前から「お金のやりくりはどうしているのですか」「どんなふうに切り詰めていますか」と、特に女性の患者さんから聞かれることが多く、それは慢性疾患があると妊娠・出産を含めて、万が一の時に経済的な大打撃を受けるからなのです。どうして人間らしく生きていくための尊厳に関わる部分、希望につながる制度にメスを入れるのでしょうか。