ベネズエラで行われた臓器移植手術の様子(写真:AP/アフロ)
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 病気や事故により臓器の機能が低下した人に、他の人の臓器を移植して回復を試みる臓器移植という治療法がある。しかし、求める人の数に対して提供される臓器の数は著しく不足しており、高額かつ違法でも、海外での臓器移植に向かう人は少なくない。

 そんな移植希望者たちに手を貸す臓器ブローカーがいる。時に命を救い、時に人を欺く臓器ブローカーとは何者なのか。『臓器ブローカー すがる患者をむさぼり喰う業者たち』(幻冬舎)を上梓したノンフィクション作家の高橋幸春氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

脳死や心停止後の腎臓移植はおよそ15年待ち

──「臓器移植法はその11条で臓器売買を禁止している。それは海外の売買であっても、提供者が外国人であっても違法とされる。それでも海外渡航移植は後を絶たない」と書かれています。なぜこのテーマで本をお書きになったのでしょうか?

高橋幸春氏(以下、高橋):もともと臓器売買に関心があって取材を始めたわけではありません。最初は修復腎移植について取材していました。修復腎移植とは、腎がんや腎動脈瘤、尿管狭窄などの治療のために摘出した腎臓の、病変部分を切除・修復して、慢性腎不全患者に移植する治療法です。

 愛媛県の宇和島徳洲会病院で万波誠という医師や「瀬戸内グループ」と呼ばれる医師団が修復腎移植を手がけていました。その様子を取材していたのです。ただ、取材の過程で、海外で臓器移植をする人たちがいるという事実を知り、実態を知ろうと海外での渡航移植に関しても取材を始めました。

 臓器移植に関しては、日本臓器移植ネットワークに登録して移植の機会を待つのが、日本国内における正規の方法です。ただ、腎臓移植は毎年200件前後行われているのに対して、腎臓移植の希望者の数は約1万5000人ほどおり、全員が移植手術を受けるには70年以上かかる見通しです。

 日本国内での脳死や心停止後の腎臓移植は、ここ数年はおよそ15年待ちという状況です。

 透析患者の5年の生存率はおよそ60%、10年の生存率は40%と言われています。現実的には15年待たずに亡くなる人が少なくありません。そのため、家族がドナーになって臓器を提供するか、それが難しい場合は、違法であっても、お金のある人は海外で腎臓を買って移植手術をするのです。

──どのようなプロセスを経て、海外で臓器移植が行われるのでしょうか?

高橋:インターネットに海外渡航臓器移植の斡旋業者のHPがあり、移植希望者はそこに連絡します。イスタンブール宣言(※)が出る前は、30社ほどがネットにHPを出していたそうです。私が取材をした段階では、4つの団体がHPを出して移植希望者を募っていました。

※イスタンブール宣言:国際移植学会(ISHLT)によって2008年に採択され、2018年に改訂版が発表された臓器移植に関する倫理的指針。

 移植を望む人はこうした団体に連絡し、大金を払って渡航移植の機会を得る。移植手術をして成功する場合もあれば、患者が亡くなってしまう場合もあります。

 日本国内の斡旋業者は、海外の臓器移植が可能な病院を紹介し、併せて通訳や不測の事態が起きた時のアドバイスなど、海外での入院をサポートします。

 斡旋業者は臓器移植法を熟知しており、自分たちがどこまでサポートできるか、どこから先は介入したらまずいかを心得ています。特に、ドナーとは直接やり取りをしないように気をつけています。