プーチン大統領のブレーンのように振る舞うことをやめたドゥーギン(写真:ロイター/アフロ)
目次

 プーチンはなぜウクライナに侵攻したのか。プーチンはなぜこれほど西側と戦うのか。それは、プーチンがネオ・ユーラシア主義に沿ってロシアの将来を構想しているからであり、プーチンの方向性を決めているのは、ネオ・ユーラシア主義の中心的な存在と考えられる現代思想家のアレクサンドル・ドゥーギンである──。

 そんな報道が日本ばかりではなく、世界的にもちらほら見られる。こうした分析は正しいのだろうか。ネオ・ユーラシア主義とは何なのか。『ネオ・ユーラシア主義 「混迷の大国」ロシアの思想』(河出新書)を上梓した東京都立大学法学部教授の浜由樹子氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──ネオ・ユーラシア主義が、プーチン政権の意思決定に影響していると報じられることがありますが、これは本当ですか?

浜由樹子氏(以下、浜):ウクライナ戦争が始まってから、「戦争が始まった背景にネオ・ユーラシア主義があるのではないか」という真偽不明の憶測が飛び交うようになりました。そのような見方は、ほとんど陰謀論のようなもので、よく言っても誤解です。

 私自身はロシアの思想・イデオロギーを専門としていますが、私たちロシア政治の研究者はこうした見方が誤解であるということを共有してきました。

 一方で、ネオ・ユーラシア主義がどのようなものなのかについて、一般的な理解が深まっているかというと、そんなことはありません。

 さらに、アレクサンドル・ドゥーギン氏という極右的な煽動思想家がいて、彼が「プーチンのラスプーチンなのではないか」というキャッチーなフレーズで、彼が全体を操っているかのような戯画化されたイメージも一緒に流布しているという印象があります。この点も誤りであると指摘したいです。

──ネオ・ユーラシア主義とは何ですか?

浜:ネオ・ユーラシア主義とは、1990年代頃に生まれたロシアの1つの思想です。「ネオ」と付いていることからもわかるように、ネオ・ユーラシア主義の前にはオリジナルのユーラシア主義があります。

 ユーラシア主義の根底には、ロシア国民のアイデンティティ・クライシスの問題があります。