米ニューヨークにある国連ビル(Filip FilipovićによるPixabayからの画像)
報道によると、ドナルド・トランプ米大統領は、米アラスカ州アンカレッジのエルメンドルフ・リチャードソン米軍基地で8月15日に開かれた米ロ首脳会談後、ロシアとの和平合意のためにウクライナが東部ドンバス地方の領土をロシアに割譲する必要性を欧州側に伝えたとされる。
この「領土の割譲」は国際法違反である。
伝統的国際法においては、戦争に勝利した結果として戦勝国の欲する和平条件を敗戦国に強制する「権利」として、戦争の終了時点を基準とした現状承認、すなわち、「武力による現状変更」が認められていた。
しかし、戦争の違法化および武力行使禁止が進展した現代の国際法においては、伝統的な戦争終結方法である、武力による強制の結果としての領域変更または現状の変更を強制する「平和条約の締結」は、違法行為国、被害国にかかわらず、国際違法行為とみなされ無効となり、法的妥当性を有さない。
関連する国際法の詳細は後述する。
さて、国際法は、国家が合意したものであるので、国家は約束したことを守らなければならない。国際法は法的拘束力を持っている。
国内の社会では、政府が警察・検察を持っていて、法律に違反した人を逮捕し起訴し処罰することができるが、国際社会には国の政府にあたる機関が存在しない。
現在、世界中で国際法違反がまかり通っている原因は2つある。
1つ目は世界には国家間の紛争を解決する権威をもった組織が存在しないこと、2つ目は国際連合安全保障理事会(以下、安保理という)が機能不全に陥っていることである。
岸田文雄元首相は2022年2月25日、記者会見で、ロシアによるウクライナへの大規模な侵攻について「力による一方的な現状変更の試みで、明白な国際法違反だ。国際秩序の根幹を揺るがす行為として、断じて許容できず、厳しく非難する」と厳しく批判した。
欧米各国も同じようにロシアを厳しく非難している。
しかし、ロシアは、自国民保護のために軍が行動していることを理由に国際法違反ではないと主張した。
では、日本および欧米とロシアの言い分のどちらが正しいかを判断するのは誰なのか。
国際社会は、第2次世界大戦を防ぐことができなかった国際連盟の反省を踏まえ、米国、英国、ソ連、中華民国などの連合国が中心となって国際連合(以下、国連という)を設立(1945年10月)した。
そして、国家間の紛争を平和的に解決することを任務とする国連の主要な国際司法機関である国際司法裁判所(International Court of Justice:ICJ)をオランダのハーグに設置した。
国連設立の最も重要な狙いは、国際連盟の失敗を反省し、国連軍による集団安全保障制度を導入し、戦勝五大国(米・英・ソ・仏・中)を常任理事国とし安保理の意思決定を重視した。
そのため、①安保理に大きな責任と権限を付与し、②常任理事国に拒否権を付与した。
しかし、常任理事国に拒否権を付与したことが仇となり、現在、常任理事国間の対立を背景に常任理事国が拒否権を行使するため、何ら重要な決議が採択されない状態となっている。
国連の集団安全保障体制の詳細は後述する。
ところで、2022年2月27日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアによる攻撃を巡り国際司法裁判所(IJC)に提訴した。
IJCは3月16日、ウクライナの要請に基づき、暫定措置命令を発出した。
暫定措置命令には、ロシアは、本(2022)年2月24日にウクライナの領域内で開始した軍事作戦を直ちに停止し、また、軍隊や非正規部隊等が軍事作戦をさらに進める行動をしないことを確保しなければならないといった措置が含まれている(出典:外務省HP)。
ICJ は国連の主要な司法機関である。(国連憲章第92条)。
このため、国連加盟国はすべて国際司法裁判所規程の当事国となる(国連憲章第93条)。その判決には法的拘束力があり、一方の国が判決に従わない場合には安保理は判決に従うように「勧告」することができる。
だが、ロシアが常任理事国である限り、ロシアを非難する「勧告」は決して発出されないであろう。
とするならば、大国であれば国際法を守らなくてもよいことになる。まことに不条理な話である。
以下、初めに最近の国際法違反の事例について述べ、次に「領土の割譲」が国際法違反である理由について述べ、最後に国連の集団安全保障体制について述べる。