ここ数年ニーズが高まっている退職代行サービス(写真:years44/Shutterstock.com)
(川上 敬太郎:ワークスタイル研究家)
退職代行・引き止めサービスが映す“会社と社員の断絶”
退職代行サービス「モームリ」に家宅捜索が入って以降、一時の勢いが影を潜めて退職代行の話題を目にする機会が減ったように感じます。弁護士資格を持たない民間の退職代行事業者は、登場した当初からグレーゾーンの存在として見られてきたところがありました。
退職意向を伝えるだけならば違法ではないものの、退職しづらい会社が相手先なだけに反発を受けやすく、交渉事へと発展して、弁護士以外が行うと違法となる非弁提携や非弁業務につながりかねません。
「退職代行モームリ」の運営会社「アルバトロス」が入るビルから段ボール箱を運び出す警視庁の捜査員ら(2025年10月22日、写真:共同通信社)
それでも退職代行の存在が社会に知られるようになったのは、サービスへの批判を上回るほどのニーズがあったからです。その一方で、機能としては真逆に位置する退職引き止めサービスの登場も話題となりました。退職を巡るサービスへの関心の高さがうかがえます。
かねて退職はデリケートなテーマであり、話題にすることがタブー視されているようなところもありました。それが社会の注目を集めるようになってきている背景には、どんな認識の変化があるのでしょうか。
民間の退職代行事業者が存在感を高めてきたのは、まだここ数年のことです。テレビやSNSなどで頻繁に取り上げられ、「退職意向くらい自分で伝えるのが礼儀だろう」といった反感と、ブラック企業が問題視される中で「辞めさせてもらえない会社がある」といった共感とがぶつかり合いながら、社会的な議論を巻き起こしました。
一方で最近話題になったのが、退職代行サービスの普及を受けて退職を引き止めることに特化した退職引き止めサービスです。退職希望者を無理に引き止める事業であれば到底認められませんが、そうではありません。会社からは見えていない課題を洗い出し、職場環境を改善することで離職防止を支援しています。
片や退職希望者を後押しし、片や退職希望者を引き止める正反対の目的を持つサービスですが、両者の背景に透けて見えるのは、会社が抱えている共通の問題です。いずれも、会社と退職希望者との間に意思疎通の破綻が見られます。