アルムナイでつなぐ“雇用の切れ目”以後の関係

 会社への批判や退職を口にできないほど社員に恐怖心を植えつけるような行為は元から許されるものではありませんが、誰もがスマホでSNSにアクセスできて退職代行サービスも広がった現在では難しくなっています。社員を支配するという考え方を持っている会社は、根本的に姿勢を改めなければなりません。

 いま会社に求められているのは、退職という不可抗力に対する受け止め方をネガティブからポジティブへと転換させることです。「雇用の切れ目が縁の切れ目」だとは限りません。受け止め方次第で、むしろ社員との新しい関係性の始まりにすることもできます。

 退職した元社員の転職先や起業した会社などが、重要な取引先になることもあります。あるいは、副業として在職中に担当していた仕事の一部を受けてくれるかもしれません。また、転職先で新たな経験と実績を積み、仲間として帰ってくることだってありえます。

 いまアルムナイ(卒業生)制度を整える会社が増えてきているのは、退職を裏切り行為と見なす姿勢が時代と合わなくなってきていることの表れです。

 雇用の切れ目を縁の切れ目にしないメリットは、社員側にも当てはまります。勤務先がブラック企業だったり、心身の健康が保てないような状況に追い込まれているのであれば別ですが、「退職のあいさつなんて、面倒くさいから」などと安易な気持ちで退職代行を用いると退職後の関係性が失われてしまいます。

 自らの口できちんと退職意向を伝え、会社からも背中を押してもらって良好な形で退職すれば、そこで得たご縁は一生の財産となります。時代が移り変わっても、不誠実な姿勢で損することはあっても、得することなどないのです。

 いまの会社を辞めたからといって、次がうまくいくとも限りません。転職してから元の会社の良さに気づくということも往々にしてあり得ます。ただ楽がしたくて目の前の仕事から逃げ出しただけであれば、同じことを繰り返すことにもなりがちです。

 退職したとしても会社と社員が良い関係を継続していれば、お互いに恩恵をもたらし続けることができます。退職代行や退職引き止めサービスが社会の注目を集めるのは、いま多くの会社と社員が意思疎通に問題を抱えているという現状への警鐘なのかもしれません。