人口減少時代に「退職=悪」は非現実的
まず、会社に採用の自由が認められているように、社員も職業選択の自由が認められています。契約は双方の合意によって成立する前提に立てば、自由意思による社員の選択を裏切りと捉えるのは行き過ぎです。退職を認めないのは、社員を私有物と見なしている表れともいえ、社員からすると尊厳や人権にかかわる問題にもなりかねません。
もう1つは、退職は必ずしも会社に対するネガティブな感情の表れではないことです。家庭でやむを得ない事情が生じることもあれば、夢を実現するには他の会社の方が条件が整っているという場合もあります。
いついかなる時でも、社員の要望をすべてかなえられる環境が会社の中に整えられるわけではありません。会社に対する否定的な感情はなかったとしても、退職することが社員にとって最適な道となる場合はあり得るのです。
退職を裏切り行為と見なし、一方的に悪いものだと決めつけるような考え方には根本的な誤りがあります。それでも人口が増え続けていて買い手市場の様相が色濃ければ、職場を運営していくことはできたのかもしれません。
しかし、過去最多と言われるほど“人手不足倒産”が増え、母数となる生産年齢人口が向こう数十年にわたって減少し続けることが確定している現在において、退職を裏切りと見なす考え方は百害あって一利なしです。