大阪・関西万博1カ月前の会合で兵庫県の取り組みをアピールする斎藤元彦知事=3月13日、神戸市中央区

兵庫県の斎藤元彦知事をめぐる告発文書問題は発覚からまもなく1年になる。県政の混乱は、知事の不信任、出直し選挙での再選を経ても収まっていない。パワハラや“おねだり”疑惑を告発した元県民局長や追及した元県会議員らの命が失われたが、デマや誹謗中傷もやまない。3月4日には文書の真偽を調査してきた県議会百条委員会の最終報告が公表され、19日には県が設置した第三者調査委員会の報告が提出される。この間の知事の発言を振り返り、混迷が深まる原因を考える。(以下、文中敬称略)

(松本 創:ノンフィクションライター)

賛同者ばかりの万博行事で自画自賛

 大阪・関西万博の開幕1カ月前となった3月13日、神戸市内のホテルで開かれた関連行事に斎藤元彦・兵庫県知事の姿があった。冒頭で講演に立ち、自らの肝いり事業から語り始めた。

「われわれは『ひょうごフィールドパビリオン』というプロジェクトを中心に、万博の機運を高め、そして何よりも万博の盛り上がりを兵庫に取り込んでいくということをさせていただいておりました」

 万博開催が決まった2018年から3年間、大阪府の松井一郎~吉村洋文の両知事の下で財政課長を務めた斎藤にとって、万博へ向けた大阪との協調、兵庫への誘客は知事選初出馬の時から掲げてきた重要施策。新年度予算案にも17億6000万円の関連事業を盛り込んでいる。フィールドパビリオンとは、県内の地場産業や農業の現場を訪ねる体験型観光のプログラムだ。

「最初ゼロからのスタートで、誰も集まらないんじゃないかなという心配もありましたけれども、おかげさまで260プログラム。またこれから増えていくと思います。多くのみなさまにご賛同いただいたことに御礼申し上げたい」

 出席した約250人はフィールドパビリオンに協力する事業者や市町関係者だ。賛同者をゼロから増やしていったという斎藤の話や、講演後に記念撮影や握手に笑顔で応じる姿は、昨秋の出直し選挙の光景を想起させた。

 続いて万博協会の副事務総長が登壇し、「万博会場の楽しみ方」を語ったが、何ら問題なく準備が進んでいるような話しぶりだった。繰り返し報じられているパビリオンの建設遅れ、前売り券の販売不振、購入・予約システムの煩雑さ、広報PR不足、さらには、つい数日前に明らかになった大屋根リングの足元の護岸浸食……そうした不都合な問題は、ここに集まる人たちの中には何一つ存在していないようだ。

 2時間の会合は、まるでSNS空間のようだった。見たくない情報は遮断する。同じような意見ばかりが飛び交い、共鳴する。情報を偏らせるフィルターバブルやエコーチェンバーが、そこに現出していた。