徳島県神山町──。人口5000人に満たない過疎の町だが、サテライトオフィスの集積や国内外のアーティストを招いたアーティスト・イン・レジデンスの開催など、地方創生における独自の取り組みで知られている。この神山町に、新たなまちづくりの1ページが加わる。この4月に開校する「神山まるごと高専」だ。
2014年の「増田レポート」で消滅可能性都市の一つに数えられた神山町に、国内で約20年ぶりの高専が新規開校するなど普通に考えればあり得ないこと。そのあり得ないことがなぜ現実になったのか。(文中敬称略)
◎著者新刊「神山 地域再生の教科書」(8月2日刊行予定)
(篠原匡:編集者、ジャーナリスト、蛙企画代表)
その日、静かな山あいの町には、どこか浮かれたような雰囲気が漂っていた。
新年度を迎えたばかりの4月2日、徳島県神山町では、とある学校の入学式が開催されていた。木の香りが漂う真新しい円形講堂には、北は北海道から南は沖縄まで、全国から集まった44人の若者が集まっている。
その学校は、昨年8月に設置認可を受けたばかりの新設校。しかも、「デザイン・エンジニアリング学科」だけの単科高専(高等専門学校)で、ソフトウェアやAI(人工知能)などの情報工学をベースに、デザインや起業家精神について学ぶという少し変わった学校だ。
目指す学生の姿は「モノをつくる力で、コトを起こす人」。
今の時代、新しい製品やサービスを生み出すには、ソフトウェアのようなITスキルだけでなく、デザインの力が欠かせない。さらにサステナブルなビジネスにつなげるには、技術とデザインに加えてコトを起こす力、言い換えれば起業家精神が必要になる。
社会を変えるようなプロジェクトを立ち上げるには、技術、デザイン、起業家精神──の3つが不可欠だということだ。
この考え方は、カリキュラムにも色濃く反映されている。