漁から戻ったトロール船。写真は「水八丸」(静岡県沼津市戸田港で、写真はすべて筆者撮影)

世界最大級のカニとして知られ、両足を広げると大きいものでは3m以上になる「タカアシガニ」。9月12日、駿河湾に面する伊豆半島北西部の戸田(へだ、静岡県沼津市)で深海魚を獲るトロール(底引き網)漁が解禁され、タカアシガニ漁が始まった。しかし今、異変が起きている。漁獲量が激減しているのだ。戸田の特産であり、舌の肥えた美食家に愛されてきたタカアシガニ漁はどうなってしまうのか。その現場と課題を追った。

(戸村 桂子:フリージャーナリスト)

駿河湾は深海魚の宝庫

 午前3時、真っ暗な駿河湾へと出港するトロール船。網を入れては引き上げるという作業を繰り返す。日本一深い湾と言われる駿河湾はメギスやアカムツ、手長エビなど深海魚の宝庫である。とりわけ漁師たちが気を張って狙うのが世界最大級のカニ「タカアシガニ」だ。

 袋状の網を取り付けた全長3000メートル以上のロープを水深150〜300mまで落とし、海底で網を引く。獲れたタカアシガニはすぐに船倉に入れられ、生きたまま水揚げされる。それを港で待ち受けているのは地元の食堂の板長たちだ。

 大きさや重さ、見た目などを素早く目利きして、氷を張った樽へと移し替え、各々の生簀へと持ち帰る。そして1杯1万5000円から3万円で戸田の特産タカアシガニ料理として客に提供する。

戸田の特産・タカアシガニ

「戸田でしか食べられないと聞いてやって来た」

「家族で毎年食べに来るのが恒例」

 国内外からやって来る客が店の前で列を作る日もあり、人口2300人ほどの少子高齢化が進む町にとってタカアシガニは貴重な観光資源となっている。

静岡県沼津市戸田港

 しかし、この数年、この光景に異変が起きている。