昔は1回で100匹獲れたこともあったが、今では…

「申し訳ございません。タカアシガニはお出しできません」

 食堂、ホテル、観光協会が繰り返し言わざるを得ないフレーズだ。

 背景にあるのは漁獲量の減少だ。タカアシガニ漁獲量国内1位の静岡県のデータ(水産資源課)によると、2018年度に12.8トンだったトロール漁による県内のタカアシガニ漁獲量は、19年度には6.9トン、23年度には3.6トンにまで減少している。

 途中、コロナウイルス感染拡大による需要減という側面はあるものの、18年度以前は10トン以上で推移していた。わずか5年で4分の1近くまで落ち込んでいることは看過できない現実である。

 なぜここまで減っているのか。

 高齢化によって漁師の数そのものが減っていることが理由の一つでもあるが、漁師たちがここ最近で開口一番にあげるのが海の温暖化だ。

 近年、戸田のみならず日本全国で言われている通り、海水温の上昇によって魚介類の生息地が変わり、それまで獲れていた魚種が獲れなくなっている。

「昔は1回で100匹のタカアシガニが獲れたことも多々あったが、今では2〜3匹だ」と語る漁師もいる。

 タカアシガニ漁の場合、“生息地の移動”だけが問題なのではない。さらに深刻なのは、“生きたままカニを持って帰ってこられるかどうか”である。

 かつて戸田では獲れたカニを全て冷凍保存し、客の注文に応じて蒸したり茹でたりして提供していた。

 しかし、タカアシガニは水分が多く、冷凍すると言わば身が溶けたようになり、本来の美味しさが消滅してしまう。

 そこで、数十年前から食堂もホテルも生きたタカアシガニを欲しがるようになった。