【この記事のポイント】
- 動物の体内環境を再現し、人為的に細胞分裂を促して作る「培養肉」の開発が各国で盛んになっている。実現すれば、食糧不足や環境問題の解決にも寄与する。
- 日本も大阪万博で展示や試食を予定しており、岸田政権は育成に乗り出しているが、アメリカなど先行する国に比べると出遅れ感がある。
- そんな中、9年連続ミシュランの星を獲得した大阪の日本料理店シェフが、料理人として独自スタンスに立った「美味しい培養肉」の開発を進めている。
(沢田眉香子:編集・著述業)
培養肉のパイオニアを扱ったドキュメンタリー映画が公開に
今世紀最大のアイデアが誘う、地球の希望の物語。それは、動物を繁殖させたり殺したりする必要がない、細胞から肉を育てる新しいフードサイエンス——次代の農業革命へようこそ。
2023年6月9日公開の映画『ミート・ザ・フューチャー』は、こんなナレーションで始まる。培養肉スタートアップのパイオニア的存在、米メンフィスミーツ(現アップサイド・フーズ)の共同創業者、ウマ・ヴァレティ博士の挑戦を追ったドキュメンタリーだ。
最近、耳にすることが増えた「培養肉」とは何か?
簡単に言うと、生きている細胞を、体内環境を再現した培養液の中に入れ、動物の体内にいると錯覚させる。そして細胞分裂を促して作る「肉」のことだ。
心臓専門医のヴァレティ博士は、幹細胞による組織の培養研究が進んでいた2000年代初頭に、この技術を食料に応用できないかと考え、鶏胸肉の細胞複製を試みた。
手応えを感じた博士は2015年にメンフィスミーツを共同創業し、2016年に世界初の培養肉ミートボール、2017年には培養鶏肉のフィレ肉と鴨肉を発表し、センセーションを巻き起こした。