(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年10月2日付)
少年が少女に夢中になり、少女がどれほど素晴らしいか、すべての人に吹聴して回る。少女は同じ気持ちは抱いておらず、別の相手を選ぶ。
すると少年は公共放送設備を利用し、少女のことが大嫌いだと学校中に放送する。
ドナルド・トランプとテイラー・スウィフトの間に起きたことは、これだ。
「I HATE TAYLOR SWIFT!(テイラー・スウィフトが大嫌いだ!)」
超大物歌手のスウィフトが先月、カマラ・ハリスへの支持を表明した直後、トランプはSNS(交流サイト)にこう投稿した。
それまでは日常的にスウィフトをほめ、昨年11月には「彼女はすごく才能があると聞いている。とても美しく、実際、異常なほど美しいと思う」と書いていた。
トランプの精神状態のおかしさは明らか
トランプの超人的な能力は、心理学者のチームが何時間もかけてそうした場面を解剖しても素材を曲げられないことだ。
トランプの意識の流れの奇怪さを米国のメディアが正確に伝えるのは、もっと難しい。
トランプの心境を理解するには、すべての政治集会を最後まで見るか、演説の起こしをすべて読むしかない。
有権者の99%には、そんな時間がない。
これはトランプが昔と変わらないトランプとして扱われ、子供じみた侮辱の言葉やとんでもない誓いが新たに飛び出ても、人がただ肩をすくめるだけで終わることを意味する。
トランプの性格に急激な認知力の低下をこっそり忍び込ませることができたとしても、気づく人はほとんどいないだろう。
政治の世界においては、これは珍しい形のハリケーン保険を与える。
群衆はトランプのイベントから早々に引き揚げる。
ところが、9月末のトランプの主張によると、もっと大きな会場を予約するために必要になるシークレットサービスの警護体制をハリスとジョー・バイデンが認めなかったせいで、何万人もの失望したトランプ・ファンが会場の外に残される。