(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年3月17日付)

ドナルド・トランプは「MAGA(米国を再び偉大に)」運動の最大の資産にして最大の負債だ。
トランプは政治の天才だ。
だが、1期目の政権で国務長官を務めたレックス・ティラーソンの言葉とされる印象深いフレーズを借りると、政策を理解することにかけては「fucking moron(とんでもない愚か者)」でもある。
「天才トランプ」と「愚か者トランプ」の間のこの緊張は、本人が立ち上げ、自ら率いるMAGA運動にとって危険だ。
関税への執着に見る自己破壊的な性質
政界の人間としては、トランプが直感的な才覚を持ち、米国政治を完全に作り替えられたことは否定できない。決定的な差で政権2期目を勝ち取ることで、共和党内での絶対的な権威を手に入れた。
差し当たり、トランプは好きなことを何でもできる。問題は、彼が望むことは米国に非常に大きなダメージをもたらす公算が大きいことだ。
トランプの政策の自己破壊的な性質を示す最も明白な例は、関税への執着だ。
トランプは、関税は輸入業者が払うものであり、そのコストの大半が消費者に転嫁されることを理解できないか、そもそも理解する気がない。
また予測不可能性を美徳と見なしている。
このため、その時々の気まぐれで関税が課されては撤廃され、再び課されることになる。その結果、企業は先を見据えた計画を立てられず、消費者と投資家はパニックに陥っている。
本人の政治的な権威がもっと弱く、従来型の顧問に取り囲まれていた1期目のトランプ政権下では、側近たちが大統領の最悪のアイデアを修正することができた。
政権の高官は時折、大統領の指示を無視するか、うまく解釈し直し、直感的な行動を封じることを目指して机から書類を片づけることまでした。
だが、2期目になると、大統領は「トランプをトランプのままでいさせる」ことを望むゴマすりで周囲を固めた。
商務長官のハワード・ラトニックは、大統領は「世界で最も重要で最も賢く、最も有能な指導者だ」と言い切る。
このためトランプは直接的かつ具体的に米国人の大半に害を及ぼしそうな政策を推し進めることができる。