2期目の行動は米国人の日常生活を直撃

 トランプは2020年大統領選挙の結果を覆そうとするなど、過去に数々の暴挙に出ている。だが、これまでの行動は米国の一般市民の日常生活に影響を及ぼすことはほとんどなかった。

 景気後退やインフレ高進、株式市場の暴落を招くことになれば、話は別だ。

 米国人の約60%は多くの場合は退職年金基金で株式を保有している。多くの人は最近の株価急落に幻滅しているだろう。インフレ期待が上昇するに伴い、消費者の信頼感も低下している。

 昨年の選挙では、有権者は最も重要な争点に経済を挙げていた。だが、経済運営についてのトランプへの評価はすでにマイナスに転じている。

 連邦政府職員の削減がワシントン以外へも波及していくと、さらなる痛みが生じるかもしれない。

 社会保障や政府が賄う医療補助が削減される可能性もあり、そうなると数百万人の米国人に打撃が及ぶ。

 米国の隣国や同盟国にケンカを吹っ掛けることは、一般の有権者が受け流せる争点のカテゴリーに入ると思えるかもしれない。

 だが、カナダを併合すると脅すこと(これもまた愚かな考え)は平和的な隣国との無用な貿易戦争の火ぶたを切った。

 もしカナダが石油や電力の対米輸出価格の引き上げを強いることによって報復すれば、一般の米国市民が苦しむことになる。

 メキシコに対する関税もスーパーの商品価格を引き上げる可能性がある。米国の輸入果物のおよそ50%はメキシコ産だ。

 カナダとメキシコからの輸入品に対する25%の関税により、米国の3大自動車メーカーの利益が吹き飛ぶ可能性もある。

権力を持った陰謀論者の危険

 トランプの政策の経済的な影響は、大統領としての彼の未来を決めることになるだろう。だが、トランプは別の形でも米国人をリスクにさらしている。

 米連邦捜査局(FBI)捜査官や諜報員を解雇すること――および国家情報長官とFBI長官に陰謀論者を指名すること――は、いずれ起きる大惨事のレシピだ。

 やはり陰謀論者のロバート・F・ケネディ・ジュニアを厚生長官に登用したことも別の明らかな危険を生む。

 トランプが内なる愚か者を米国政府に向けて解き放つのを見ていると、ある著名な米国人ビジネスマンから1月に聞かされた予想を思い出す。

「トランプがやると約束していることの半分でもやれば、これがすべて吹き飛ぶ。そして丸一世代にわたってMAGAの信用を失墜させる」

 MAGAが吹き飛ぶ明らかなメカニズムは、次の選挙での共和党の惨敗だ。だが、中間選挙は2年近く先だ。

 トランプとその手下はその間に、選挙制度を含む米国の制度機構に多大なダメージを与えられる。

 政権が目に見えて揺らぎ始めたら、トランプは恐らくスケープゴート探しと権威主義の強化で対応するだろう。