トランプ級「戦艦」の建造を発表したトランプ大統領(12月22日、フロリダ州の別荘マー・ア・ラゴで、写真:ロイター/アフロ)
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年12月17日付)
「自由の存続と成功を確実なものにするため、私たちはいかなる対価も払い、いかなる重荷も背負い、いかなる困難からも目をそらさず、いかなる友人も支え、いかなる敵にも抵抗します」
1961年1月20日の就任演説でジョン・F・ケネディ大統領は政権の目標をそのように明言した。当時は東西冷戦の真っ只中だった。分断された欧州に住む者にとって、この演説は衝撃的だった。
今にして思えば、この自惚れた野心がベトナム戦争の行き過ぎにつながった。だが、この演説は崇高な理想――道徳的な目的を持った超大国の掲げる理想――のあらわれでもあった。
数々の失敗にもかかわらず、人々はこの目的の存在を信じ続けた。ナチスや共産主義者とは対照的に、米国は自由と民主主義を信奉していた。
この約束は誰よりもヨーロッパ人にとって重要な意味を持つ。この約束は最終的にソビエト帝国の崩壊、中東欧の解放、そして統一と平和と繁栄の新時代につながったからだ。
だが、歴史においてはよくあることだが、希望は失望に変わってしまった。
欧州内部における排外主義的・反民主主義的な勢力の台頭、失地回復政策を取る権威主義的で好戦的なロシアの復活、そして現代欧州の中核に位置する思想への2期目のトランプ政権の激しい敵意は、欧州の人々をがっかりさせている。
米国の崇高な理想を裏切る国家安保戦略
米国の新しい国家安全保障戦略(NSS)には奇妙な特徴が多数見受けられる。
だが、最も奇妙なのは、そしてヨーロッパ人にとって最も不穏なのは、欧州が米国にとってイデオロギー上唯一の敵だと見られていることだ。
この文書のほかの部分では、国益とはイデオロギーではなく単に物質的なものだと見なされている。
そして民主主義と自由に脅威をもたらしているのは、米国とその親しい同盟国の内部に巣くうトランプ政権の敵だけだと決めつけられている。
そのうえでこの文書は米国政府の権力が「『米国の民主主義を守るため』との口実で濫用されてはならない」と断言し、それに続けて(続けて書かれているのは偶然ではない)こう述べている。
「我々は欧州、英語圏、そして民主主義世界のほかの国々、とりわけ我々の同盟国において、中核的な自由にエリート主導の反民主主義的な制約が課されることに反対する」
さらに、「米国の外交は、真の民主主義、表現の自由、そして欧州諸国がそれぞれの特徴や歴史を臆することなく称えることを擁護し続けるものであるべきだ。米国は、欧州の政治的盟友に対し、この精神の回復を促進するよう奨励する。実際、欧州における愛国者の政党の影響力拡大は楽観論を裏付けている」としている。
この記述の重要性は明らかだ。米国の主たる狙いは、右翼の「愛国者」が政権を取るよう欧州大陸全域で支援することなのだ。
おまけに米国は、そうした政党に抗う試み自体が反民主的だと主張している。ただし、次のことは思い出す価値がある。
ヨーロッパ人は(今までの)米国と違い、民主的に政権を取りに行く権利を右翼過激派に認めた結果何が起きたかを記憶している。ヒトラーがどのように権力を握ったかをまだ覚えているのだ。