イラストは生成AIで作成
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年12月9日付)
トランプ政権の新たな「国家安全保障戦略(NSS)」は欧州で酷評された。それでも真に興味深い文書だ。
新たな指針は非常に野心的なことをやろうとしている。国家安全保障を文明的な観点で再定義しようとしているのだ。
国家安全保障に関する伝統的な見解は軍事的、経済的な責務を中核に据える。新しいNSSも通り一遍にこうした問題に触れる。だが、執筆者の心が込められていないことが感じられる。
極めて重要な台湾問題に関するくだりは「台湾をめぐる紛争を抑止することが優先事項だ。台湾については公式に宣言した年来の政策も維持する」と淡々と主張している。
これはまさに「ホールディングステートメント」(編集部注:危機時に備え、時間を稼ぐために事前に用意しておく声明のこと)の定義そのものだ。
話が文明的な問題に移ると、文書ははるかに精力的になり、革新的な色を帯びていく。政権の文明の定義には明らかに強い人種的要素がある。たとえ、そうとはっきり書かれていないとしても、だ。
列挙された最初の政策の優先事項は「大量移民」の終結だ。
NSSは「我々は侵略から、歯止めの効かない移民流入から国を守らなければならない」と断じている。
欧州の「文明消滅」に警鐘
その概念が次に大西洋を越えて欧州へ向けられる。これが、欧州は「文明消滅」の瀬戸際に立たされているというNSSの物議を醸す主張を支える根拠だ。
戦略文書は「少なくとも20年、30年以内に特定のNATO(北大西洋条約機構)加盟国が人口の過半数を非ヨーロッパ人が占める国になることは十二分に考えられる」と主張している。
この主張は心理学者が時折、「プロジェクション(投影)」と呼ぶもののように感じられる。実際には、国勢調査のデータの傾向が2045年までに「非白人が多数派」の国になることを示唆しているのは米国の方だ。
現在の傾向が続くとすれば、英国やドイツが似たような節目を突破するのはさらに数十年先になる。
それにもかかわらず、欧州の「文明の消滅」を防ぐために、トランプ政権は「欧州諸国の内部の現在の軌道への抵抗を育むこと」を提案している。
これは明らかにドイツのための選択肢(AfD)やフランスの国民連合(RN)、英国のリフォームUK(改革党)などの国家主義の反移民政党を支持することを意味する。
米国の外交政策におけるこの文明的な発想の転換はどこから生じたのか。
NSSの執筆に携わった最も影響力のある人物は、最近まで米国務省の政策企画局長だったマイケル・アントンだと考えられている。
これまでアントンが最も名を馳せたのは「The Flight 93 Election(93便選挙)」と題する2016年の論文だった。
論文はヒラリー・クリントンの大統領選出を防ぐことは米国にとって国家の存亡にかかわる問題であり、「第三世界の外国人の果てしない輸入」を阻止するために米国はトランプを選ばなければならないと論じていた。
アントンは2016年に、大量移民に対する寛容的な姿勢は「死を望む文明」の特徴だと主張していた。
どこか聞き覚えがあるのではないだろうか。