トランプの真の狙い

 しかし、この新しい戦略はヨーロッパ人にとってこそ最も重要だと言える。まず、欧州が独力でウクライナを防衛することが示されている。

 さらにひどいことに、米国は機関としてのEUを破壊したい、そしてその権力をドナルド・トランプやプーチンの腰ぎんちゃくたちに分け与えたいと思っていることも示されている。

 2度の世界大戦の記憶による無力感、分断、心の傷に苦しんできたヨーロッパ人にとって、気持ちを奮い立たせることは非常に難しいだろう。

 だが、ほかに道はない。やらなければ崩壊するだけだ。とんでもないタイミングでEU離脱を決断していたことが分かった英国にも、それに近いことが当てはまる。

 では、具体的に何をやればいいのか。喫緊の課題はウクライナ支援だ。

 必要な手をすべて打ち、何らかの実行可能なやり方で公正かつ安定した平和に持ち込まねばならない。

 また、欧州はロシアの脅威にも効果的な対抗策を構築しなければならない。これについてはフィリップ・ヒルデブランド、エレーヌ・レイ、モリッツ・シュラリックの3人による「欧州防衛の統治と資金調達」のための提案が優れている。

 ケネディの演説を読み返した時、筆者はトランプ版のパロディーを想像した。

「私の、私の家族の、そして友人たちの富と権力を確実なものにするため、私たちはいかなる金額も取り立て、いかなる重荷も背負わせ、いかなる困難をももたらし、いかなる友人にも反対し、いかなる敵とも味方になる」

 しかし、たとえトランプが今示したように自分本位で損得勘定を重視する人物だとしても、MAGA(米国を再び偉大に)運動はそうではない。

 経済学者のノア・スミスは、「米国の右派は欧州を評価している。なぜなら、欧州は白人キリスト教徒の故郷だと思っているからだ」と指摘している。

 今日のリベラルな欧州が持ちこたえられるようにするには、このように反動的な妄想は対処され、打破されなければならない。

(文中敬称略)

By Martin Wolf
 
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