トランプ級「戦艦」の建造を発表したトランプ大統領(12月22日、写真:AP/アフロ)
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年12月23日付)
帝国の支配者が戦略的後退を指示する時、支配者の権威は当人が想定し得たり恐れたりしていた以上のペースで崩れてしまうことが多い。
思い浮かぶのは、ソビエト連邦とアパルトヘイト(人種隔離政策)時代の南アフリカ共和国がたどった運命だ。
最後の指導者となったミハイル・ゴルバチョフとF・W・デクラークは硬直化したシステムの改革を唱道した時、自分たちはその過程をしっかり制御できると自信を持っていた。
しかし結局は、自分たちが解放した勢力にその座を追われた。
米国の意図的な退却に揺れる世界
米国がここ数十年担ってきた世界の管理人の役目を投げ捨てつつある今、制御できない同様な動きが生じている。
もちろん、これは強いられたのではなく意図的な退却だ。
ドナルド・トランプはゴルバチョフやデクラークとは違い、事の展開に振り回されて政府から追い出されようとしているわけではない。
だが、長らく君臨してきた覇権国が猛スピードで崩壊するところはかつてのソ連や南アフリカに似ている。今回のケースでは、米国が長らく支配的な超大国だった世界の全域でそれが生じている。
理屈の上では、これは「ミドルパワー」と呼ばれる国々が言わば成人になることを意味している。
米国がお説教を垂れる台座から降りることを長らく待ち望んでいたグローバルサウスの有力な国々にとっては特にそうだ。実際、無節操な国々にとっては新たな機会が到来している。
だが、米国がテントをたたむ速さには多くの友好国が唖然とし、当惑している。米国のライバルである中国の影が不気味に迫っているアジアではなおさらだ。
この地域のミドルパワーの多くは、「自分の望みには気を付けよ」(実現するとかえって困ることが往々にしてあるという意味)という古いことわざを思い出すことだろう。
東南アジアのある国の元政府高官は先日、筆者にこう語ってくれた。
「我々は状況がこのように移行することを望んでいたが、実現するならもっと緩やかに、自然に進むだろうと思っていた。米国自身が移行の引き金を引くとは思ってもみなかった」