2期目のトランプ政権で流れが一気に加速

 米国の権威と世界のリーダーであろうとする意欲は、トランプが1期目の大統領のイスを勝ち取る前から弱りつつあった。

 その始まりは2008年の世界金融危機に、そしてそれより前の不幸なイラク侵攻にさかのぼる。だが、この流れを一気に加速させたのはトランプの2度目の大統領就任だ。

 それによって生じた空白を中国が埋めようとしないため、起業家精神が比較的旺盛なミドルパワーの国々にとって、今の時代は国益追求にうってつけだ。

 インドの雄弁な外相スブラマニヤム・ジャイシャンカルは今年の春、本紙フィナンシャル・タイムズ(FT)の昼食インタビューに応じ、このビジョンと機会について明快に語ってくれた。

 これまでよりも多くの国々が意見を表明できるグローバル・システムへの移行は「長らく待ちわびていたことだった」と言い、「昔の秩序の利点は誇張されている」と付け加えた。

 確かに「ルールベースの秩序」は偽善的であることが多かった。

 ジャイシャンカルのような見解は、米国の地経済学的な都合に基づくことが多い要求を丸呑みせざるを得ない時代が数十年続いてきたグローバルサウスの多くの国々で耳にする。

 世界の警察官でありたいという米国の欲求が弱まる一方で、中国が台頭している、そのためミドルパワーは米国のくびきを逃れ、状況に応じて北京とワシントンのどちらに頼るか選べるようになるというのが、その理屈だった。

 その通りになりつつある国もあるかもしれないが、ブレグジット(英国による欧州連合=EU=離脱)に似たありがたくない展開になっている国もある。

 支配的なシステムからの自由は、推進派が期待していたような単純なものではない。

多国間貿易システムの崩壊に潜むチャンス

 シンガポールやマレーシアなど、東南アジアにおける米国の同盟国や友好国は昔からこの綱渡りに長けている必要があった。

 この2カ国も多くのミドルパワーと同様に、トランプの関税に対応すべく外国との商業的なつながりを作り直している。例えばシンガポールは、アフリカに大使館を新たに2つ開設すると表明した。

 だが、米国主導の多国間貿易システムの崩壊の加速は、グローバル化を背景に経済を急速に発展させた国々にとってかなり厳しい状況をもたらす。

 マレーシアの投資貿易産業相を務めたテンク・ザフルル・アジズは、中国と米国のバランスを取ることはどれくらい難しいのかと問われ、「難しいなんてものじゃない。多極化した世界での多国間貿易システムの運営は容易なことではないだろう」と答えている。

 インドのジャイシャンカルは移行期の危険についてインタビューで警鐘を鳴らし、「進化を超えた」、しかし「苦痛を感じさせない安定した」秩序がその後継として作られなければならないと語った。

 それが実現しなければ「非常にアナーキーで非常にホッブズ的な世界を目の当たりにすることになる」と話した。