(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年3月5日付)

ドナルド・トランプは3月3日、非常に重要な決断を2つ下した。
1つ目は10%の関税を先月課したばかりの中国からの輸入品にさらに10%の関税を課したことに加え、カナダとメキシコからの輸入品にも25%の関税を課したことだ。
欧州連合(EU)からの輸入品にも25%の関税が発動されると見られている。米国によるモノの輸入のうち、これら4カ国・地域の生産物は61%を占める。
より重要な2つ目の決断は、ウクライナへの武器供与を停止し、攻撃を受けて苦しんでいる国に「降伏か、それとも敗北か」という究極の選択と思えるものを突き付けたことだ。
トランプの友人のウラジーミル・プーチンは有頂天になっているに違いない。何しろ米国の大統領が自分の目の前で西側陣営を引き裂いているのだから。
これらは、第2期トランプ政権発足後にめまぐるしく下された数多くの決断の一部にすぎない。
だが、米国を除く世界にとっては極めて重大な決断だ。
なぜなら、世界最強国家である米国との間に結ばれたリベラルで予測可能かつルールで統治される貿易関係が――そのような貿易システムを構築したのがほかならぬ米国だったのに――終わることを意味するからだ。
これらの決断は、米国が中核的な同盟関係とコミットメントを捨てて旧敵との関係強化を選んだしるしでもある。
トランプは明らかに、欧州よりロシアの方が重要だと思っている。
貿易赤字の原因は相手国のインチキではない
どちらの件においてもトランプは甚だしく間違っている。
国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミスト、モーリス・オブストフェルドが指摘しているように、米国の貿易赤字は貿易相手国のインチキのせいではなく、米国の支出が所得を上回っていることによる。
米国の貿易赤字における最大の決定要因は、連邦政府の巨額の財政赤字(現在は対国内総生産=GDP=比で約6%)なのだ。
共和党が支配する議会上院は2017年のトランプ減税を恒久化する計画であり、少なくとも市場が資金を提供する間は、この財政赤字が今後も続くことは確実だ。
そう考えると、関税で貿易赤字を縮小しようという試みは、パンパンに膨らんでいる風船を押しつぶそうとするようなものだ。
この理屈を理解するには、トランプには全く欠けているマクロ経済学の知識がいくらか必要になる。
だが、彼の愚行はそれだけではない。
大統領はこんなことも言っている。「正直に言おう。欧州連合というものは米国からカネを搾り取るために作られた。それが本当の目的だ。それをとびきり上手くやってきた」。
欧州については、さらに「向こうは米国のクルマを買わない。農産物も買わない。ほとんど何も買わない。米国は向こうから何もかも買っている」とも言った。
どちらの不満もばかげている。
EUが作られたのは、2度の恐ろしい大戦で荒廃した大陸に豊かな経済関係と政治的協力関係をもたらすためだった。
米国はそれを昔から理解し、この分別ある対応を積極的に促進してきた。
だが、あれは悲しいかな、今日の自己憐憫に浸った粗忽者とは大きく異なる米国だった。