ウクライナと同国大統領を責める暴挙

 貿易戦争もとんでもないことではあるが、2月28日にホワイトハウスの大統領執務室で米国の大統領と副大統領がウォロディミル・ゼレンスキーに仕掛けた奇襲攻撃と、それに続いて発表されたウクライナへの武器供与停止はもっととんでもないことだ。

 米国の狙いは、ゼレンスキーに鉱物資源の取引に署名させることなのかもしれない。

 だが、それ以上に大きな問題は、ゼレンスキーが真っ当な理由があってプーチンを信用していないことであり、今ではトランプを信用する根拠も失われてしまったことだ。

 また、トランプは「和平協定」を望んでいるのかもしれないが、もしプーチンがウクライナを簡単に手に入れられるのであれば、どうして純粋な和平協定に同意するのだろうか。

 トランプもプーチンも、自由な人間であろうとするウクライナ人の意志を見くびっている。

 だが、その目標を達成するには、欧州が自らの守りを固めつつウクライナの防衛も支えることの負担を引き受けなければならない。

 ドイツの次期首相になるフリードリヒ・メルツが、自身の「絶対的な最優先事項は、米国からの独立を一歩一歩、本当に達成できるように、欧州をできるだけ速く強くすることだ」と述べたのは正しい認識だ。

 一歩一歩進むこれらの段階は急いで踏んでいく必要もある。

 差し押さえたロシアの外貨準備2000億ユーロ超をウクライナに渡す手続きを急ぐことは、その一つになるだろう。

 そして、北大西洋条約機構(NATO)に対する米国のコミットメントが崩れた以上、防衛体制を大幅に増強する必要もある。

米国自体にとっても高くつくツケ

 EUに英国を加えれば、人口はロシアの3.6倍になりGDP(購買力平価ベース)は同4.7倍になる。

 このため問題は人材や経済資源の不足ではない。

 実現する可能性の小さい仮定ではあるが、もし欧州が効果的に協力し合うことができれば、長期的に軍事面でロシアと均衡する勢力になれるはずだ。

 だが、難しいのは中期だ。

 欧州には、欧州自身やウクライナが頼りにしている決定的に重要な軍事装備品を作る力がないからだ。

 もし欧州がそういった兵器を購入しようとしたら、米国はその供給を拒絶するだろうか。

 拒絶されたら、まさにそれは真実が明らかになる瞬間となるだろう。

 トランプは、米国の同盟国や米国を頼りにしてきた国々を相手に経済・政治戦争を始めている。

 だが、その結果、かつて価値観を共有していた国々の信頼を損なっている。米国にとっても、そのツケは非常に高くつくものとなるだろう。

(文中敬称略)

By Martin Wolf
 
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