(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年3月13日付)

イーロン・マスク氏の息子を連れて歩くドナルド・トランプ大統領(3月14日、ホワイトハウスで、写真:ロイター/アフロ)

 ほかにどんな欠点があるとしても、ミレニアル世代は「cope(コウプ)」という単語の名詞形を文明にもたらした。

 本来は「対処する」という意味の動詞だが、この名詞形は「状況を実際よりも深刻でないように見せる試み」を意味する。したがって、この厳しい時代では用例に不自由しない。

「少なくとも、ドナルド・トランプはビジネスにとっては良い」もコウプだし、「ドナルド・トランプが気にかけているものが1つあるとすれば、それは株式市場だ」というのも一級品のコウプだ。

「ドナルド・トランプはこれらの数字を無視できない」という前提に立って経済指標や大統領支持率の悪化を引き合いに出せば、月間最優秀コウプだ。

世論のくびきは解かれた

 当然ながら、トランプはこうした数字を無視できる。第2期トランプ政権にとって非常に重要な事実は、3期目を目指して出馬できないことだ。

 そのため、1期目には行動の抑制に役立った世論というくびきから解放される。

 関税が景気後退を招こうが、外交政策が世界の危機を招こうが、支持率がどん底に落ち込もうが、失うものは何もない。

 最悪の場合、共和党――トランプは党のことなどほとんど気にかけていない――が中間選挙で惨敗することになるが、どのみち中間選挙が終われば2期目の大統領はレームダック(死に体)だ。

 昨年11月からこの点を指摘してきた筆者には、2種類の反応が予想できる。

 1つは、トランプは2028年の大統領選挙の候補者にJ・D・バンスか、ひょっとしたら肉親の誰かを立てたいと思っており、経済や地政学で混沌とした状況を作り出して後継者の選挙の邪魔をするはずがない、という反応だ。

 勘弁してもらいたい。

 アンゲラ・メルケルやトニー・ブレア、ジョー・バイデンといった従来型の政治指導者でさえ、後継者の育成計画には無頓着だった。

 トランプのレベルのエゴイストが3年後の他人の選挙への戦略的な配慮から自分の行動を律するなどということが考えられるだろうか。

(ちなみに、後継者の有権者受けが悪ければ、当の政治家はかえって立派に見えるものだ)

 もう一つの反応は、トランプは合衆国憲法修正第22条を無視して3期目を目指すか、次の大統領選挙そのものを中止するというものだ。

 この可能性を即座に排除するのは軽率だろう。だが、それは崇高な憲法の崩壊を論じることにほかならない。そんなことはめったに起きない。

 ベースラインのシナリオとしては、トランプは任期終了時に82歳でホワイトハウスを出なければならず、本人もそれをわきまえていると想定する必要がある。

 したがって、トランプは合理的なアナリストの多くが考えるほどには景気後退に陥る可能性や今後数年間の支持率低迷を恐れない可能性がある。