景気後退が事態をさらに悪化させるワケ
実際、現実はもっとひどい。
トランプがやっている最もダメージが大きな3つのこと――ウクライナ支援の出し惜しみと国内の制度・機関の侵食、関税発動――のうち最初の2つについては、景気後退に陥れば大統領がさらに力を入れるかもしれない。
景気が悪化すればするほど、欧州防衛に投じる米国の資源を減らす口実が説得力を増す。
財政状況が悪化すればするほど、連邦政府やそのほかの公的機関を骨抜きにする理由も増える。
景気後退はトランプを抑制するどころか、むしろ過激にさせる出来事かもしれない。
本質的に、トランプは今やほぼポスト政治的な存在だ。
選挙での効果を狙って活動するのではなく、活動すること自体を目的にできる立場にあるということだ。
1期目のトランプなら、関税発動が「混乱」をもたらすという情報を自発的に発信することなどしなかっただろう。
政治家として、自分を自ら痛めつけることになったからだ。
第1期トランプ政権は無党派層の動向を不安視していた。これに対し、現在の政権は「MAGA(米国を再び偉大に)」の支持基盤と付き合うことを望んでいる。
第1期政権にはグレーの背広に身を包み、他人に安心感を与えるエクソン・モービルの社員のような閣僚が参加していたが、現政権には途方もない規模の資産を持つ千年王国信奉者が加わっている。
第1期政権はごくありふれたポピュリズムを実践したが、現政権にはニヒリズムと呼んだ方がよさそうな何かの痕跡がうかがえる。
敵対相手からの譲歩には応じるが・・・
トランプについては、いくらかの真理を含んだコウプが1つだけある。
トランプ個人へのおべっかであれ物理的なアメであれ、敵対する側からの譲歩にはまだ応じている、というものだ。
交渉の余地があることの証拠は、カナダへの関税発動やウクライナとの機密情報共有でスイッチを入れたり切ったりしていることにうかがえる。
これはどうやら、ある週に降伏の意をトランプにどの程度示したかによって決まっているようだ。
だが、有権者はどうか。浮動票に配慮しなければいけないという自制はどうか。そのくびきはトランプが当選した昨年11月に外れている。
行政のトップの行動を制限する記述が非常に少ないことから、英国の憲法は本質的に政治家の善意にかなり大きな賭けをしているとされる。
米国のシステムのある側面もそれほど変わらない。その側面とは大統領の2期目、なかでもその後半の2年間だ。
この時期になれば、最高司令官は自分の任期がいつ終わるか分かっているが、それまでは地球上最大の権力者だ。
連邦最高裁などの機関による抑制はまだ及んでいるものの、それに従うかどうかは本人の良心(および引退後に「好ましからざる人物」になることへの恐怖心)に左右される部分が大きい。
イラン・コントラ事件やウォーターゲート事件の隠蔽の大部分など、第2次世界大戦後のスキャンダルの多くが大統領2期目に起きていることは多くを物語る。