(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年3月11日付)

ドナルド・トランプは絶対にノーベル平和賞を受賞しない。
だが、欧州の結束に最大の貢献をした人に毎年授与されるカール大帝賞(シャルルマーニュ賞)の有力候補になるはずだ。
トランプは米国大統領としてロシアに接近し、北大西洋条約機構(NATO)への信頼を損ない、欧州連合(EU)を関税で脅し、欧州で極右勢力を後押しした。
これらすべてがEUにショックを与える効果を発揮した。
これまで何十年も滞っていた欧州の結束強化へ向けた抜本的な対策が今、進み始めている。
注目しておくべき重要な分野が3つある。1つ目は欧州の防衛、2つ目は欧州共同債、そして3つ目は英国とEUの不和の修復だ。
こうした展開を支えているのは、欧州の世論に見られる劇的な変化だ。
先週実施された世論調査は、英国人の78%がトランプを欧州に対する脅威と見なしていることを示していた。ドイツ人の約74%、フランス人の69%もこれに同意している。
ドイツで実施された別の世論調査では、フランスがドイツ人の85%から「信頼できるパートナー」と評価され、英国も78%の高得点を獲得したのに対し、米国は16%にとどまった。
米国は今や「脅威」、依存を断つ方向へ舵
外交上の理由から口に出して言う人はほとんどいないものの、欧州諸国の多くの指導者はトランプの米国が今では脅威になったと考えている。
欧州首脳は、80年目に入った大西洋同盟のために、欧州が米国の軍事支援に大きく依存するようになったことも痛感している。
これはお金だけの問題ではない。本当に危険なのは米国の技術と兵器に対する依存だ。
欧州の人々はトランプ政権が機密情報と兵器の供与を停止した後、ウクライナ人がどれほど大きな問題に陥ったか、よく分かっている。
このため2本立ての政策を追求している。
米国による欧州への軍事支援が断たれる日をできるだけ長く先送りしながら、その日に向けてできるだけ速やかに準備するのだ。
これがEUの防衛産業に投資するために1500億ユーロ調達することを欧州委員会に認めた首脳陣の決断のロジックだった。
新規支出は恐らく防空システムなど、欧州諸国が特に大きく米国に依存している分野に集中的に投じられるだろう。