(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年3月26日付)

トランプ政権の経済政策は支離滅裂のようだ(Pixabayからの画像)

 先週のコラムでは、トランプ政権の国際経済政策について一部で「セインウォッシング」(意味不明な言葉をメディアが穏当な表現に直して伝えること)だと批判されたことを試みた。

 言い換えれば、トランプ政権のメンバー、とりわけス大統領経済諮問委員会(CEA)委員長のティーブン・ミランの主張を支える論理や証拠があるかどうかを検討した。

 カリフォルニア大学バークレー校教授のブラッド・デロングは、この試みが的外れだと述べた。

「ディール(取引)を行うためには、約束を守る人物だと相手に思わせなければならない。ドナルド・トランプは毎日、自分がそういう人物ではないことを見せつけている」

 これには筆者も同意するし、先週もそう述べた。

米ドルが慢性的に過大評価されるわけ

 だが、それでも、ここに重要な政策問題が垣間見えるかどうか、もし見えるとしたらそれに対して何ができるかを問うことはできるはずだ。

 例えば、財務長官のスコット・ベッセントは3月、米国は世界に安全保障を提供しているうえに「準備資産を提供し、最初から最後まで頼りになる消費者として行動し、ほかの国々の国内モデルでの需要不足が原因であるにもかかわらず供給過剰を吸収している。こんなシステムは持続可能ではない」と語った。

 そして同様に、ドルは慢性的に過大評価されており、「その影響が米国の製造業セクターに重くのしかかっている一方で、金融化されたセクターは潤っており」、米国の比較的豊かな階層に恩恵をもたらしていると論じている。

 ミランの主張の出発点は、経済学者ロバート・トリフィンが1960年代初めに唱えた議論にある。

 外貨準備としてのドルに対する需要はドルの過大評価を招き、それに伴って貿易収支と経常収支が赤字になったという議論だ。

 しかし、各国が準備通貨を蓄積する方法はこれだけではない。

 かつて国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストを務めたモーリス・オブストフェルドがピーターソン国際経済研究所(PIIE)のブログで論じているように、世界の国々は米国内の資産の代わりにほかの外国資産を取得することもできる。

 それに、外国人が米国資産を購入するのは外貨準備のためだけではない。経済学者ポール・クルーグマンが言うように、単に米国の資産が欲しいのかもしれない。

外貨準備を積み上げる動機

 とはいえ、外貨準備の需要が国際収支の重要な要因になることも時折ある。

 外貨準備の残高の総合計は1999年から2014年にかけてほぼ7倍に拡大した。これについては、将来の金融危機から身を守りたいという新興国の需要が大きな要因になっていた。

 だが、最大の外貨準備保有国である中国の場合、余剰貯蓄のさばき口を見つけたい、そして製造業に輸出主導の成長をもたらしたいという動機もあった。

 その一方で、トランプが標的にしているユーロ圏の外貨準備は、1999年の終盤から2024年の終盤にかけて720億ドルしか増えていない。

 外貨準備を蓄積する願望よりも根本的な力も作用している。それは貯蓄性向と投資性向の違いだ。

 投資よりも貯蓄の方が多い国では、それゆえに経常収支が黒字になり、同じ額だけ金融収支が赤字になる。

 逆に貯蓄よりも投資の方が多い国では、経常収支が赤字になって金融収支が黒字になる。

 これは必ずしも困ったことではない。だが、問題が生じるかもしれない。まず、世界中で資本を仲介するシステムは危機を引き起こす。

 そうした危機を安全に管理できるのは、国内で流通する通貨が信用されている準備通貨でもある国だけだ。

 新興国の政策立案者が経常収支の黒字を目指すことが多いのは、この理由による面が大きい。

 経常収支の黒字が目指される理由はもう一つある。

 それは、もし経常収支が黒字なら、その国は貿易可能な財・サービスを国内消費量よりも多く生産していることになり、経常収支が赤字ならその逆になるからだ。

 したがって貯蓄率の高い国々――中国、ドイツ、日本など――に比較的大きな製造業があること、そして米国や英国がその逆であることは決して偶然ではない。

(もっとも、米国と英国は輸出可能なサービスの生産を得意としており、製品の輸出がその分少なくなっている)