(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年4月2日付)

筆者はこの2週間で北京と香港を訪れた。
今回の旅ではっきりしたのは、今日の世界では米国が革命志向の――より正確に言えば反動的な――大国で、共産国家であるはずの中国が現状維持志向の大国だということだ。
その意味で、欧州連合(EU)と中国には共通する点が多い。
中国の支配者層は、現在の世界と中国自体のありようを好ましいと思っている。
EUはそこまで慢心していない。EUのエリート層は経済と安全保障における難題を認識し、EUが大きく変わらなければならないことを分かっている。
だが、そのEUのエリートも、ドナルド・トランプが新たに作ろうとしている混沌とした世界よりは、トランプが破壊しようとしている今の世界の方がはるかに好ましいと思っている。
よそ者がこの広大な国を短期間訪れただけで何らかの明確な結論を引き出そうとするのは、ばかげているとは言わないまでも、かなり大胆な試みだ。
とはいえ筆者は1993年以降、パンデミックの時期を除き、少なくとも年に1度は中国に足を運び、この国の経済発展をつぶさに追いかけ、欧米で教育を受けた大勢の政策立案者と付き合ってきた。
筆者が生きてきた時代において、中国の台頭はほかを大きく引き離す最大の政治・経済ストーリーだ。
大胆であろうとなかろうと、トランプが中国にとって何を意味し、その中国が世界にとって何を意味しているのかを理解するべく努める必要がある。
以下が、筆者が学んだことだ。
毛沢東の文化大革命との比較で米国を見る中国エリート層
第1に、筆者と話をしてくれた中国の人々は今の米国における大変動について、中国で1966年に始まった文化大革命と比較しながら考えていた。
毛沢東は反主流派のリーダーとしての威光を利用し、中国の官僚と知識階層に戦いを挑んだ。
トランプもまた、選挙で選ばれた反主流派のリーダーとしての権力を利用し、米国の官僚と知識階層を打倒しようとしている。
今の中国のエリート層、少なくとも比較的年長のエリート層はこの文化大革命に対する強い嫌悪感を広く共有している。
トランプの革命も好ましく思っていない。
第2に、欧米のエリート大学で学ぶために1980年代や1990年代の中国から逃れることができた人の多くは、留学先で目にした価値観を高く評価し、自分の国にもそれが根付くことを期待した。
法の支配、個人の自由、そして近代科学の概念が素晴らしいと思っているようだった。
こうした人々にとって、今の米国で起きていることは耐えがたいことだ。
米国が自国の主義主張に反する行動を取っていることを残念に思うこのような気持ちは、中国特有のものではない。